制作こぼれ話

歴群調査隊、出動!(歴史群像110号)

ちょっと気になるパスポートの歴史

明治11年(1878)「日本帝國海外旅券」と印章のアップ。この当時は内閣制がなかったため、初代外務大臣・井上馨が就任した明治18年からは外務大臣の名前が記載されている。現在のパスポートには外務大臣要請文の下に外務大臣の公印が入っているのみ。(外務省外交史料館所蔵)


このパスポートは布哇國(ハワイ)に移住する人に発行された。「明治22年9月17日 日本皇帝陛下外務大臣 従二位 勲一等 大隈重信(官印)」と記載してあり、裏面は英文のほかに独、仏、露、中国がある。このパスポートは明治26年に改正されるまで「日本皇帝陛下」とあるのは、明治天皇が大日本帝国憲法の発布の年だからだと思われる。(外務省外交史料館所蔵)

憲法発布略図(明治22年)楊洲周延・画

写真左のパスポートは半分に折ってもA3サイズになる大きなもので、旅券規則が改正されるたびにサイズと形態は変化している。当時のパスポートは一度帰国したら無効になってしまい、一回きりしか使用できなかった。(外務省外交史料館所蔵)

 今回、歴群フォーラムの歴群調査隊では、「菊花紋の歴史」について調査しました。外務省外交史料館から貴重な所蔵品であるパスポートの画像をお借りして掲載したのですが、残念ながらモノクロだったために見えにくかったかと思います。その追加レポートとして、朱印をカラーで見ていただくとともに、日本のパスポート(旅券)の歴史を少しだけご紹介します。
 日本で最初のパスポート(御印章)は、慶應2年10月17日(1866年11月23日)付で江戸幕府の日本外国事務(外国奉行)が曲芸団「日本帝国一座」総勢18名を率いた隅田川波五郎に発給したもの。この御印章は縦に4つ折りにたたみ、別の上紙(礼紙)に包んだものでした。以降は厚手の和紙を使用した一枚紙の賞状型、冊子型へと変わっていきました。
 パスポートの変遷については本文でも触れましたが、大正9年(1920)にパリで行われたパスポートに関する国際会議(国際交通制度改良会議)で冊子型の旅券に改定されました。表紙中央には国章を記すことが国際統一になり、日本では大正15年(1926)発行の「大日本帝國外國旅券」が最初の旅券となりました。しかし、日本にはパスポートの表紙に記す国章は存在しませんでした。そこで古くから親しまれていた菊花をデザインした紋章(菊花紋)が採用されました。菊花紋は天皇家の御紋章に一見すると類似していますが、現在のパスポートには複弁のない「十六弁表一重菊紋」が使用されています。
 菊花紋について外交史料館で調べていると、日本のパスポートには第二次世界大戦後の約6年間無地だった時期がありました。連合軍の占領体制下にあった日本は、外交機能を全面的に停止していました。この当時のパスポートには、保護要請文は記載されず「連合国最高司令官によって許可された日本国民であるに相違ないことを証明する」と記述されましたが、昭和26年(1951)には、現行の旅券法が制定・交付され、旅券の発給権が回復しました。この時のパスポート第1号はサンフランシスコ平和条約に渡米した吉田茂に発給したものでした。(1951年8月20日発行)
 写真をご覧いただければ、パスポートの形態や旅券規則の改正は、外交問題や移民問題が大きく関わっていることがよく分かります。
 今回は「菊花紋の歴史」について調査しましたが、歴群調査隊では調査依頼大募集しています。歴史に関する皆様の素朴な疑問や質問をお待ちしております!

このパスポートも布哇國に移民した人のもの。日付は明治27年(1894)6月14日とあり、その左には「日本帝國外務大臣 勲一等 従二位 陸奥宗光(外務大臣之印)」と記載されている。(外務省外交史料館所蔵)

裏面左上部には英文、下部には仏文、左横には中国文が記されている。(外務省外交史料館所蔵)

大正9年(1920)3月26日に発行された移民専用のパスポート。明治42年(1909)以降は移民専用の旅券も発行された。(外務省外交史料館所蔵)

裏面は第一次世界大戦の勃発で旅行者や滞在者の身分証明の必要が生じたために、大正6年(1917)には写真が貼られるようになった。(外務省外交史料館所蔵)

明治38年(1905)、用紙全面に「日本帝国海外旅券」という透かし文字が入れられ、活字や枠の模様など精巧な旅券が発行された。これはハワイに移民する人の増加で旅券の偽造が問題になったために作成された。(外務省外交史料館所蔵)

外務省外交史料館(住所:東京都港区麻布台1-5-3
電話:03-3585-4511)

 今回、外交史料館で閲覧した史料は申請をすれば閲覧可能です。その他にも様々な外交文書を所蔵しています。
・外務省記録「帝国皇室御紋章関係雑件」
・外務省記録「外国旅券関係雑件」
・外交史料館報 第12号平成10年6月 研究ノート「戦前期の旅券の変遷」柳下宙子
・「パスポートとビザの知識」春田哲吉

調査依頼送り先
〒141-8412
東京都品川区西五反田2-11-8 16F
(株)学研パブリッシング 教養実用出版事業部「歴史群像」係

(文/調査員・ベッキー)

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