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制作こぼれ話

『ザ・パシフィック』の九五式軽戦車見聞レポート(歴史群像119号)

しっかり“戦車”していた撮影用プロップ

大戦時、サイパン島で九五式軽戦車の搭乗経験を持つ下田四郎氏。車体に触れ、当時を懐かしんでいた。同氏の体験談は、本誌101号にインタビューが掲載されているので、ご一読のほどを。

車体後方の誘導輪と転輪。よく見ると、本物にはあるビスや車輪表面のわずかな曲面などは省略されている。とはいえ、自走する機能を持たされているため足回りは本物の戦車に近い機能を備えている。
 

 本誌119号の「歴群フォーラム」編集部レポートで紹介している、九五式軽戦車の撮影用レプリカ。アメリカのテレビドラマ『ザ・パシフィック』で使用されたものですが、今回は、直に手を触れたりした上で感じた点などを少し。
 撮影用車両だけあって細かい点は省略されていますが、車体のディテールは実車の写真などと見比べてもかなりいい雰囲気を出しています。昨今の海外ドラマでは、軍事考証に加えて兵器も可能な限り実物に近い摸造を行うことが多いのですが、このレプリカは傑作の部類に入るかもしれません。転輪の細部や排気管カバーなどは実物とは若干異なりますが、そこは細部をあまり写さない撮影用車両ならではでしょう。手抜きをしたというより上手く省略した、そんな印象です。
 本物の車体はリベット止めですが、レプリカは溶接組みで、リベットは接着剤で止めただけ。また、装甲も本物よりかなり薄く(触った感じでは数ミリ)、重量は当然本物よりかなり軽い。もっとも、レプリカのエンジンは自動車用のため本物よりも低出力とのことなので、車体が軽いことは「軽戦車ならではの軽快な走行」の再現に役立っているのかもしれません。
 一方で、独特な方式のサスペンションは、緩衝方式は本物と同等で、硬めながらちゃんとクッションが効いていました。本物の九五式軽戦車は、急な発・停車時に車体がかなり揺さぶられる感じに見えるほどクッションが柔らかめだったようですが、レプリカは余り揺動せず、走りはきびきびした感じです。また、実物から模ったキャスト製造の履帯は、走行時の音も含めて見事に「戦車」らしさを醸し出します。形状もかなりリアルですが、どうやら材質が軟鉄のような柔らかめの素材らしく、舗装路上の走行でかなり削れている印象です。
 現在、NPO法人・防衛技術博物館を創る会に属し、宣伝部隊(?)としての活躍が期待されている九五式軽戦車レプリカ。「本物そっくりのレプリカが走る!」という点も注目ですが、これを足掛かりに本物の九五式軽戦車に込められた車両開発の技術と、当時の開発者の努力に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

実車同様運転席のハッチが開閉式のため、操縦士は前方を見ながら操縦ができる仕様である。が、『ザ・パシフィック』では砲煙弾雨の場面描写ゆえ操縦席のハッチを開けっ放しにはできない。そこで車体の前後に各1個、CCDカメラ(赤い矢印)を埋め込み、車内の液晶モニターで見ながら操縦できるようにしてある。撮影用車両ならではの工夫だが、このモニター画面を利用した操縦方式は、実際の戦車開発史において何度も試みられてきた方式でもある。

砲塔の旋回と37ミリ戦車砲の俯仰はともに手動で可能。手動といっても、油圧ハンドルや、ギア式の旋回装置などはなく、例えば砲の俯仰なら砲本体に相当する部分を手で上げ下げする、といった具合だそうである。ただ、自分のほうに砲身が向いてくるとそれなりに緊張感はある。豆鉄砲扱いされ、低威力の代名詞ともされる37ミリ砲だが、それが自分に向けられるとなれば話は別。『ザ・パシフィック』の劇中で「狙われた」海兵隊員の気持ちが、なんとなくわかった気がした。


(文=熊右衛門尉/取材協力=NPO法人・防衛技術博物館を創る会
http://www1.ocn.ne.jp/~npo-dtm/