編集後記

流れた時間と変わらない情熱

 いまからもう、ン十年まえのことです。
 とくに目的もなく大学生協の書店に立ち寄ったら、雑誌コーナーで平積みになっている本が目につきました。なにかの雑誌の増刊号のようでしたが、思わず手に取ってしまったのは、それがマンガだからでした。
 タイトルは『とんびの眼鏡』。まったく知らない作者でしたが、パラパラ読んでみて、絵のうまさにビックリしました。いえ、単に絵がうまいのではなく、とにかくマンガがうまい! これはすごい! そのままレジに直行して買いました。
『とんびの眼鏡』は、某カメラ雑誌に連載されていた作品でした。私が手にしたのは雑誌の別冊形式の総集編でした(この作品はのちに『ライカの帰還』と改題されて新潮社から刊行され、さらにその後、幻冬舎で完全版が刊行されることになります)。
 小中学生の頃の私の夢は漫画家でした。さすがに大学生ともなると、自分にそこまでの才能はないし、どうしても漫画家になろうという強い執念もないし……。要するに現実を受け入れていました。それでもまぁ、趣味でペンを使って絵を描いたり、スクリーントーンをカッターで削る練習をしたりしていました。短期間ですが、漫画家デビューした先輩のアシスタントを経験したこともあります。
 購入した『とんびの眼鏡』を何度も読みかえして、自分がもし漫画家になるなら、この人のような線でマンガが描きたい……。そう思いました。とはいえ、この画力は、生まれ持った才能だけでなく、不断の努力の積み重ねがあってこそのものなのでしょう。私にはとうてい到達できないどころか、目指すことさえおこがましいと感じたものです。
『とんびの眼鏡』の作者は吉原昌宏――。この作品が、吉原先生との出会いでした。

 どうにか学業を終えた私は、漫画家という夢はとっくに諦めて、いろいろなところでいろいろなことをやって(ムカシ米陸軍で迫撃砲撃っていたって話は冗談です・笑)、紆余曲折の果てに編集みたいな仕事をするようになり……。そして、吉原先生とお会いする機会を得ました。やがて、『歴史群像』で連載をお願いすることになり、担当させていただくことになりました。自分が憧れていた漫画家さんと仕事ができるようになるとは……! 人生には、こういう巡りあわせもあるのだと不思議に感じたものです。
 ちなみに宝物だった『とんびの眼鏡』総集編は、人に貸したら戻ってきませんでした(大事な本は絶対に誰にも貸しちゃいけないのだと、これを機に私は心に誓いました)。
 担当編集としての私は、いい加減であまり能力が高くなく、吉原先生のお役に立つどころか、ご迷惑をおかけしてばかりですが……。吉原ワールドの制作に、わずかばかりでも参加できたことは、私の仕事人生のなかでも特筆できることだといえます。
 吉原先生は、いまも『とんびの眼鏡』の頃と変わらぬ熱量で、『戦場伝説』を執筆されています。物語が佳境を迎えているいま、読者のみなさまには、よりいっそうのご声援をお願いしたく思います。

 さて、話はガラリと変わって宣伝です。
『世界の未来兵器 最強ガイド』が、3月23日に発売となります。執筆者のみなさんは全員このジャンルのエキスパートばかり。内容の濃さとヴィジュアルの豊富さには自信があります。同じテーマで本書よりおもしろい本は、もう3年は出ないと断言します。ぜひご覧ください。というか、損はさせませんので、ぜひご購入ください。値段は560円+税です。どうかよろしくお願いします!

補足:『とんびの眼鏡(ライカの帰還)』の企画から連載、そして単行本刊行までの経緯は、主人公のモデルとなった船山克氏の息子さんで、連載当時の担当者でもあった船山理さんによる「『ライカの帰還』騒動記」が、ネット上で公開されています。吉原先生は、デビュー当時からすごかった!
水牛のように

 (by 種子島鉄砲之助/歴史群像148号)

NEXT    TOP    BACK