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歴史群像バックナンバー

旧海軍駆逐艦を演じた海自護衛艦

 円谷英二が特撮を担当した戦後制作の戦争映画には、大型ミニチュアや部分セットのほかに実物のフネも登場する。
 中でも、旧海軍艦船の代役を務める海上自衛隊の護衛艦は印象的で、『太平洋の翼』(昭和38年)に登場した『ゆきかぜ』(『はるかぜ』型護衛艦)、『ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐』(昭和35年)に登場した『うらなみ』(『あやなみ』型護衛艦)は、それぞれ海自草創期、第一次防衛力整備計画(以下、「一次防」のように略す)より前の各年度計画で建造された艦だが、映画制作時には就役まだ間もない頃である。
 また、『太平洋奇跡の作戦 キスカ』(昭和40年)にも、三船敏郎演じる大村司令官が着任したり、作戦を練りながら釣り糸を垂れるシーンでは実物の護衛艦が使われている。これも、いわゆる“オランダ坂”が見えるところから推測して、『あやなみ』型、初代『むらさめ』型、初代『あきづき』型のいずれかである。 
 “オランダ坂”とは、上甲板の上に一層の甲板室を設けて船体後半まで延長した長船首楼型という船型の、船首楼を艦尾側の上甲板レベルまで緩やかに接続するスロープのことである。これら各型の一番艦が建造された三菱重工業長崎造船所に因んで、この呼び名がついた。
 いずれにしても、設計にはまだ旧海軍の技術関係者が多数絡んでいた頃で、上に載る兵器システムや電波兵装は米国製もしくはライセンス製造であっても、船体をはじめ全体の雰囲気には旧海軍の香りが残っている。つまり、海自護衛艦もこの頃まではまだ広い意味での第二次大戦型駆逐艦もしくはその延長線上にある駆逐艦であったと考えてよいだろう。
 その次の世代、特に二次防艦以降になると、全体の雰囲気はうんと現代的になる。直線的な船体、角ばった艦橋、新型の5インチ砲や3インチ砲、アスロック(ロケット式対潜魚雷)などの兵器システムは、1960年前後に就役するアメリカ駆逐艦・フリゲイトの艦影が色濃く表出している。これらの護衛艦では、たとえ遠景であっても旧海軍駆逐艦の代役は務まらなかったであろう。
 無論、『ゆきかぜ』や『うらなみ』も、大型化したマストやその上の対空レーダー、単装の5インチ砲などは太平洋戦争時のわが駆逐艦代役としてはいささか苦しいものがある。“オランダ坂”とて、旧海軍にこの形式の甲板を持つフネは存在しないと言われれば事実その通りなのだが、画面上では自然にその場面に溶け込んでいる。船体色のグレー、比較的小型で丸みを帯びた艦橋、2本の煙突間に魚雷発射管を配置した艦中央部の間延びした感じ等々が、そう遠くない祖先の面影を偲ばせるのだ。
 映像作品における兵器の代役には突っ込みどころ満載の陳腐極まりないものもあるが、これは非常にうまくいった例といってもよいだろう。

 (by 老兵バーク/歴史群像138号)