編集後記

コクピットから見る景色

 久々に、『歴史群像』に野原茂さんの記事が帰ってきました。不定期ながら、日本陸海軍機の「一部分」を切り取って主に技術的側面から航空日本の変遷を切り取る企画。再開の第1弾はコクピット=操縦席(搭乗員室)。吹きっ晒しから始まって、完全気密に挑戦するまでを駆け足で紹介しましたが、記事を作成していたら、遠い昔、ある機体に乗せられて怖い思いをした記憶が蘇りました。
 小学校の高学年の頃だったと思いますが(記憶の彼方を弄る目)、父親の当時の仕事の関係で、ヘリコプターに乗せてもらうことになりました。パイロットはアメリカの、しかも軍人さん。機種はベルUH-1イロコイ。機体のサイドの大きなスライドドアがなぜか取り外してあって(本当はドアがあったことは後から知った)、子供の目から見ても急ごしらえの座席がコクピットの操縦席と背中合わせでしつらえてあって、そこに座らされて……。ちょっと空中散歩――なんていう楽しげなものではなく、座席の左右が素通しの状態で、腹周りを布のベルトで止めただけで急旋回。地面を見ながら着陸するまで硬直していたことを思い出しました。もう、周りの景色なんて覚えちゃいません。
 話を陸海軍機のコクピットに戻すと、航空機の運用は基本的に人間の技量や気力、体力による部分が多く、それを支える機能が集約された場所がコクピット。20世紀も半ばを過ぎるとジェット化が進んだ航空機はより複雑な機構・機能を有するようになり、機の状態確認のための計器類が激増していって、そうなるとコクピットからの景色を楽しむどころじゃないですね。特に軍用機は。
 現在は逆にブラックボックス化・デジタル化が進んで、アナログ式の計器類に愛着を感じるアナクロ人間にとってはむしろ面白味が薄くなった感じもしますね。やっぱりレシプロ軍用機の時代がいいよなぁ、てなことを考えながら記事を楽しんでいただけたら幸いでございます。
 それにつけても、イロコイの低空旋回の怖さよ……。

 (by 熊右衛門尉/歴史群像142号)

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