編集後記

血で購った同盟関係

 前号から加わりました「老兵バーク」です。
 今回、瀬戸利春さんの『漆黒のソロモン駆逐艦戦』の記事原稿を読みながら、米国のアナポリス海軍兵学校を訪れたときのことを思い出していました。
 同校のメモリアル・ホールには、戦死した兵学校出身者全員の銘板が並んでいます。まず独立戦争、南北戦争、米西戦争、第一次世界大戦などにおける戦死者が並びます。そして第二次大戦の大西洋における戦死者のあとに、それまでのすべての戦死者を合計した数よりはるかに多くの、太平洋における戦死者が並びます。それはもう、桁違いといってよいほどの圧倒的人数です。それを見たときの、申し訳ないけど誇らしくもある複雑な気持ち。「あなた方も苦しい戦いだったのですね」と、語りかけたくなる奇妙な連帯感。
 ソロモン海域における日米の死闘を省みるとき、相手も苦しみ抜いた戦いだったのだという感慨があらためて湧いてきます。一時はニミッツでさえソロモンの放棄を考え、ルーズベルトはその際の国民感情まで考慮したといわれています。そうなると、その後数年はこの戦線に戻れなかっただろうという見方もあり、最終的に日本の敗北は避けられなかったとはいえ、戦争の展開と終わり方は大きく変わったことでしょう。
 大西洋で見せ場のなかった米海軍にとって、その存在意義を大きく輝かせてくれたのは、史上最大のライバルであった旧日本海軍です。死闘の後の同盟であればこそ、現在の日米安保体制は今日まで堅固だったのだと私は確信してしています。

( by 老兵バーク/歴史群像121号)

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