零戦五二型取材記(歴史群像118号)
足元は寒々と、『栄』発動機は轟々と……!?
架装を待つ『栄』二一型発動機(手前)と、「首なし」状態の零戦五二型。零戦は、エンジン架装部が操縦席に近くて首が短いため、前方視界が良い機体といわれているが、なるほど、操縦席のすぐ前にエンジンがあるという印象だった。
発動機の架装が終わり、電気系統の配線作業中の一コマ。黄色い塊は潤滑油タンクだが、こうして見ると、『栄』発動機の後部と潤滑油タンクの間は隙間があまりなく、補器類や燃料配管、配線でぎっしりという感じ。
胴体尾部のカバーを外した状態。尾輪の装着状態がよくわかる。外から見るとシンプルな形状の尾輪だが、内部は緩衝機構も含めてそれなりに複雑な機構になっている。組み立て完了後は見えなくなってしまう部分でもあり、貴重な撮影となった。
零戦五二型が搭載する『栄』二一型発動機の音は、「轟々と~」という感じではなく、むしろ高周波寄りの音域を含んだ軽快な音でした。もちろん、自動車用の水冷エンジンなどより大きな排気量だけに、ある種の豪快さも感じさせてくれます。最後のほうで、短い時間でしたがスロットルを少し開いて回転数を上げてくれるサービス(?)もあり、いよいよ発進、という緊張感も一瞬ですが味わうことができました。現場の音質そのまま、というわけには行かないのですが、サイトにアップした動画で気分を味わっていただければ幸いです。
当日の動画撮影スタッフは、一人が「右手にスチル用の一眼レフカメラ、左手に予備のビデオカメラを据えた一脚」というアクロバテッィクな撮影スタイル、もう一人のメインカメラ担当は「寒さに弱くて終始震えっぱなし」という状況。画面が若干ふらついているのはそういう理由なので、ご容赦のほどを……。
なおエンジン始動に先立ち、機体の組み立ても公開(別日・エンジンと水平尾翼の組み付けがメイン)されており、こちらも取材に行ってまいりました。機体を間近で見ることができたため、いろいろな発見がありました。垂直尾翼接合部に被弾痕があったり、機体尾部が外されていたため、普段は機体内にあって見られない尾輪の機構を見られたり、といった具合です。特に興味深かったのは、水平尾翼の装着部。接合部覆いをいちいち外す手間を見ていて、零戦は「製造もさることながら、前線での整備や補修にも手間がかかった」という話を思い出しました。間近で見た「本物」の零戦は、戦後もエア・ショーの展示飛行などで使われ続けたためか傷みや歪みがあちこちに見られ、歴戦の老兵といった趣も感じさせてくれました。「所沢航空発祥記念館」では2013年8月いっぱいまで展示される予定なので、足を運んでみてはいかがでしょう。一見の価値はあると思いますよ!
(文=熊右衛門尉)