イベント企画中に飛び込んだ偶然のビッグニュース(歴史群像133号)
本誌116頁でお伝えした通り、『歴史群像』創刊以来初となったイベント、<『大和』型戦艦講座>は、当初の予測を超える大盛況となりました。ここでは、こぼれ話というほどのものでもありませんが、若干の舞台裏を記しておきます。
講義中、自らの監督作品『軍艦武藏』から元乗組員が艦内の惨状を語るシーンを上映中の手塚正己先生。
そもそもこの企画は、手塚正己先生が監督撮影された映画『軍艦武藏』(1992年作品)を、学研ホールで原版フィルム上映して監督自らの解説を聴く催しを開けば、読者の方々にも喜んでいただけるのではないか…というものでした。
話は20数年前に遡りますが、私は中野の小さな劇場で封切られた同作品を見ていました。
そして、「これはクロード・ランズマン Claude Lanzmann 監督の『SHOAH ショア』(1985年作品)と同じ制作手法による新世代ドキュメンタリだ」と直感しました。ランズマンの諸作品についてはすでに多く言及されて、世界的には評価が高まっていましたが、作品そのものは日本でまだ未公開の頃です。
私自身も冷戦末期の東欧を一人で写真撮影して回り、ベルリンの壁崩壊に立ち会ったその足で各都市に残る旧ユダヤ人居住区や強制収容所跡を訪ね、それらの記憶をまだ消化し切れずに抱えていました。そして、ソ連が遂に消滅し、戦後ヨーロッパの枠組みが大きく変容しようとするその時、ホロコーストに正面から取り組んだ大作『ショア』を未だ見ぬことに多少の無念を感じている者の一人でした。
そこに、『軍艦武藏』が登場したのです。そして、その対象に貼り付くようなインタビュー手法、台本なしに立ち上がる話者の感情の噴出、そういうところに、翻訳された世評と情報で知るランズマン作品との共通性を嗅ぎ取りました。何よりも、当事者が老境に入るまさにそのタイミングでのみ実現し得た、奇跡的な聴き取りという点に強く惹かれました。
遠い時代のことではなく、自らの生と地続きの歴史に遭遇し、それに真正面から取り組むことの出来た幸運な人がここにもいる。そういうことに気づかせてくれた映画だったのです。
…というような青臭い記憶を、昨年11月、取材から帰る電車の中で手塚先生に述べたとき、先生から半ば冗談のようにご提案された上映企画、これが事の発端だったのです。
年が明けて、この話がイベント企画として動き始めました。
まことに偶然ではありますが、それからしばらくしてポール・アレン氏による“海底の『武蔵』発見!”のビッグニュースが飛び込んで来たのです。
私が過去にこの映画を観ていたこと、その感想を監督である手塚先生に述べる機会があったこと、戦後70年企画が予定されていたこと、これらが一本の線につながったように感じた瞬間でした。
その後、学研シニア部門や関連部署からの支援・協力を得て、包括的でより充実した内容の企画へと洗練され、開催実現の日を迎えたのでした。手塚先生がそのために短く抽出された映画の一場面は、講座の内容をより立体的に引き立てるものとなりました。
協賛スポンサーである株式会社ウッドマンクラブ展示の、戦艦『大和』(沖縄水上特攻作戦時)精密再現模型。
同じく株式会社ウッドマンクラブ主催による12戦艦投票ランキングの様子。途中経過だが、各艦ともに票を集めている。
株式会社未来造形による三八式歩兵銃体験コーナー。実銃の重さや所持感を試しながら、様々なポーズで写真撮影が行われていた。
『歴史群像』ブース。創刊当時の表紙や、所謂「赤本」時代のムックを懐かしむ人も多かった。
株式会社ウッドマンクラブ様には、戦艦『大和』の2つの時期を再現した精密模型の展示、加えて12戦艦投票ランキングを実施していただきました。集計の結果、第1位はやはり『大和』でした。
軍艦ファンの間では、知識が深まってくると「戦艦はシロウトっぽくて好きではない」「『大和』は初心者向けだ」とする傾向が多分にあります。しかし、今回ご参集戴いた皆様はその質疑のレベルからもかなり高等な知識をお持ちの方々だと感じました。例えば、「イベント名に『長門』型を冠してもよいのだろうが、それでは人が集まらないのでまずは『大和』型なのだろうな」というようなことが分かっている方々だという印象です。図らずもその主催者側の意図が反映した投票結果であったと思います。
株式会社未来造形様には、帝国陸海軍航空隊烈士像フィギュアの展示と、三八式歩兵銃の体験コーナーを設けていただきました。ここも休憩時間には大盛況で、銃を構えた聴講者の方々の撮影依頼に大わらわのご様子でした。
両出展企業には、ご商談・照会へつながる場所と機会を提供できたものと喜んでおります。
また、『歴史群像』ブースでは過去の節目のバックナンバー、ムック、最近刊展示、特製Tシャツ展示などを行いました。多数の皆さんに手にとってもらい、また感想などをお聞かせいただきました。
次回のイベントも是非ご期待下さい。
(文=老兵バーク)