暦と“翼”と季節感?(歴史群像140号)
表紙の迷彩パターンは、5~6月パートの二式複戦『屠龍』を参考にした。ただ、そのまま日の丸を白縁付きにはせず、デザイナーとの打ち合わせで本土防空戦の初期に用いられていた識別標識の白帯入り、としてひとひねりした。本土防空戦の『屠龍』は金属地肌にそのまま濃緑の迷彩塗装を施している場合が少なくないが、金属感のある銀色地肌の表現は普通の印刷では難しいため、地色入りとした。
巻末の企画ページは、カレンダーのイラストで登場した機種を題材にした性能比較を考えてみた。上の図は最初の企画立案段階のラフで、一〇〇式司偵を題材にして速度と航続距離を比較する(右側)予定だったが、比較対象の海外機種に左隣の「双発戦闘機」にも登場するP-38が入っていることと、図の趣旨も何となく似てしまうため、日米艦爆3機種(九九式艦爆、『彗星』、SBD)の比較へと切り替え、さらにSB2Cを加えて日米とも新旧2機種での比較へと変更した。
今回、始めてカレンダーを付録にしてから初の試みとして、年内最後の発売号に付けることになった。1月1日からカレンダーを使いたい、という読者の皆さんの要望に応えるための試みだ。
付録カレンダーの第1号は佐竹政夫画伯のイラストによる「日の丸の翼」がテーマだったが、今回、久々に第2弾と相成った。ただ、テーマが決まった後には、ちょっとした悩みが待っていた。実は、カレンダーの絵柄として6機種(2カ月単位なので)選ぶに際しては、それなりに“ひねり込み”を加えているのだ。
それは何かといえば、「季節感」。
軍用機のどこに季節感が? と思われるかもしれないが、ポイントは2つあって、1つは機種が持つ開発などの背景、もう1つは描かれている風景の雰囲気と色彩。何となくというレベルではあるのだがイメージ合わせをしている。それなりに頭をひねって決めたので、紹介しておきたい。
1~2月は『雷電』だが、決めたポイントは抜けるような蒼空の色。担当編集者が東京在住だからという事情なので恐縮だが、東京の正月は人も車もぐんと減り、日ごろくすんだ印象がある空も、特に風が強いとすっきり抜けてきれいな青色が拝めることがある。絵柄は本土防空戦なので、それ自体は正月のめでたさと重なるような状況ではないのだが、今回は描かれた『雷電』の勇壮さと、何より空の色で決めた。
続いて3~4月に選んだのは、田園地帯と湾口を背景に飛ぶ九三式中練「赤とんぼ」。ポイントは、学校でいえば入学と卒業、社会への門出の時期でもあること。操縦技能者への入り口でもあり、卒業という出口=海軍パイロットとしての本格的なスタートが待つ予科練の乗る機種ということで、春3~4月に据えた。背景に“緑”が欲しかったということもある。俳句では赤とんぼは秋の季語だが、「予科練の 春に舞い飛ぶ 赤とんぼ」という感じだろうか。
5~6月は、結果として季節感ではなく迷彩の柄合わせで『屠龍』になった。これが一番悩んだ機種(季節感)で、陸海の機種バランスを勘案しつつ、他の季節の機種をある程度決め、表紙イメージを「陸軍機」「陸軍特有の印象的な迷彩」という方向に固めてから、デザイナーへのデザインイメージプレゼン用の意味も兼ねて迷彩パターンが近い『屠龍』に落ち着いた。
7~8月の二式水戦は、真っ先に決まった機種で、夏・海・空のイメージに一番はまった。
9~10月の一〇〇式司偵は、背景の色味と雲で決めた。眼下の乱雲と遠くに見える刷毛で払ったような雲が、夏から秋に向かう季節のイメージに重なると考えた。
11~12月の『彗星』は、12月が1年の締めの月であることからの選択。複葉の九四式艦爆から始まった高速艦爆の理想にようやく到達した、日本海軍艦爆(急降下爆撃機)開発の締めの機種であることと、加えて活躍の機会にあまり恵まれなかったという寂しさを、寒さ厳しい本格的な冬に向かうこの時期のイメージに重ねた。
カレンダーは実用品でもあるわけだが、『歴史群像』のカレンダーはそれだけではなく、各担当者が遊び心やこだわりも加えている。楽しんで、役立てていただければ幸いだ。
(文/熊右衛門尉)