制作こぼれ話

NHK大河ドラマ『八重の桜』ロケ潜入レポート(歴史群像120号)

考証と演出のあいだで

八重といえば、やっぱりスペンサー銃。撮影用のギミックとはいえ重量は約4kgもある。ゲベール銃と比べると、全長は短めだが、実際に持ってみると短い分だけ、かえってその重さがズシンとくる。

砲撃で破壊された北出丸の漆喰塗込の土塀。実際に竹や藁を使って造られているのに驚かされる。 

撮影風景。スタッフの方々が抱えている緑の幕はCG合成用。想像以上に多くの人が撮影現場で働いていてビックリしました。

 4月某日、大河ドラマ『八重の桜』公開ロケの取材へ、われら歴群編集部も行って参りました。『八重の桜』の舞台となる日本の幕末期は、世界的にも小銃や大砲が近代兵器として劇的に発展した時期。日本の火砲研究の第一人者・佐山二郎さんを考証に迎えるなど、従来よりも銃砲を中心とした時代考証にかなり力が入っており、早い話が「ミリタリーのツボ」が満載のドラマなのです。幼い頃に「学研ひみつシリーズ」を読んで織田信長・豊臣秀吉・徳川家康を知り、少年時代に『独眼竜政宗』『武田信玄』を観て育った世代の私としては、否も応もなく馳せ参じた次第であります。
 撮影場所は、茨城県つくばみらい市の「ワープステーション江戸」。ここは時代劇撮影のためのロケ施設で、NHKの『BS時代劇』や『タイムスクープハンター』といった、おなじみの番組が撮影されている場所なのです。今回はその施設の一角に、八重たちが籠城して戦った鶴ヶ城北出丸が再現されました。
 土塀の屋根には会津地方特産の「赤瓦」が葺かれ、土塀は実際に藁と竹と土で造るなど、細かい所も手を抜かずに再現されていましたが、「戦国の城」担当編集者として気になったのが北出丸の大手門(この頃、実はちょうど119号の『会津若松城』の作業進行中)。「枡形虎口」ではないのです。
 NHKの美術担当・岸さんによれば、これは城郭考証の方との相談のうえで既存の建造物を可能な限り利用しているためとのこと。時代劇の撮影では様々な制約でセットの完全再現が難しい場合も多々あり、限られた条件の中でいかに「それらしく」見せられるかに腐心するとのことで、そこが美術の腕の見せ所でもあるそうです。制作サイドの苦労も知らず、普段から重箱の隅をつつくようなことを言っていてスミマセンでした…と反省しきり。
 その一方で、映像技術の進歩により、これまで小さく「狭く」しか表現できなかったものが、実際と変わらない大きさを表現できるようになったそうで、「広いものは広くみせる」ことを心がけているとのことでした(松平容保と水戸斉昭が立ち話をした江戸城「松の廊下」のシーンなど)。
 そしてもうひとつ、ご教示いただいたのは、ただ「正確に再現する」だけではドラマにならないという点です。時代劇の場合、物語の演出上の理由で、実際のものとはあえて異なって再現することもあるとの。たとえば会津軍の使用する葵御紋の旗も、北出丸のセットとのバランスを考えた上で見栄えがするサイズのものが使用されており、また土塀沿いの武者走りも、実際はかなりの高さの高土塁なのですが、その高さをそのまま再現することができないため、土塁を石垣造りにして迫力を出しているそうです。
 「時代劇」とは歴史劇である以上、時代考証をおろそかにすることはできませんが、一方でエンタテイメントとして昇華させなければならないという難題を抱えております。その考証(リアル)と演出(フィクション)のバランスが取れているもの、また考証できないところを逆手にとった意外な演出が光るものが、「よい時代劇(歴史劇)」なのだと、あらためて感じた一日でした。

(文=山猫の小平太)


NHK大河ドラマ『八重の桜』毎週日曜日、NHK総合・BSプレミアムで好評放送中!

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