制作こぼれ話

メイキング・オブ「戦士の食卓」(歴史群像112号)

スパム・スパム・スパム

鉄板で、両面を適度に焼きます。撮影のため焦げ目の付き具合が異なるように何パターンか焼きました。

スパムや卵の色合いの比較。こうして撮影用のスパムの焼き方、卵の焼き色等のパターンを決定します。
カップや皿も候補からチェック。スパムを載せた皿は左右どちらも同じように見えますが、製造元が異なるので素材感、色感、色調が微妙に違うんです。コーヒーマグはバラエティー性が高いので、いちばんオーソドックスにまとめました(つまり「無難」ってこと)。

焼き方と、皿やカップが決まったら、撮影用の皿を並べアングルを決めます。それから撮影用の料理を改めて作ります。撮影中に冷めてはきちゃうけど、一応出来立てを撮りたいですからね。
(メイキング写真キャプション=水梨由佳)

 『歴史群像』112号で連載7回目を迎えた「戦士の食卓」。各国の指導者を始め将軍から一兵士までが、戦時に「その時、なにを食べていたのか?」を紹介するというコンセプトで始まったコーナーです。数年前に静かなブームとなったレーション(携帯糧食)を中心とした「ミリ飯」企画とは違い、ちゃんと調理された料理のみを扱うのがミソ。
 今号で紹介したスパムは私も好きで、時々、缶詰を買ってきては自分で調理しています。炒め物や卵料理の具など日常の食卓だけでなく、アウトドアでも簡単に調理できる万能食材として重宝しています。
 では、第二次大戦中にはどのように食べられていたのか? アメリカ兵の戦記などから見ていくと、卵料理のほかに、「シチュー」や「パイ」の具、「パンケーキ」の付け合わせ、単品の「フライ」などなど……。ようは料理に使われる肉の替わりとして朝・昼・晩の食事に供されました。
 結果、「昨日もスパム、今日もスパム、明日もスパム」と毎日のように続く料理は、アメリカ軍将兵たちを辟易させてジョークのネタにされた訳ですが、原因はスパムだけでなく、ほかの食材も新鮮味に欠ける缶詰や乾燥食品が一緒に使われたことと、調理人の腕前にも原因があったようです。
 記事で紹介する料理は、筆者の水梨さんが毎回調理して、写真を撮影しています。今回は「制作こぼれ話」用にメイキングも撮影していただきました。
 料理を再現するにあたり、使用したスパムは現在一般に販売されている缶詰です。また、スクランブルエッグは生卵を使用しています。
 卵は当初、料理の出来上がりを当時のイメージに近づけたいと思い、乾燥卵を使おうと考えていました。しかし、当時の乾燥卵の製法を調べてみると、卵黄だけを乾燥させたものや、発色を良くするため黄色の着色剤が添加されたものなど、メーカーごとに製法の違いがあることが判明。生卵に近い色の製品もあったということが分かったことで、誌面では生卵で再現してもらいました。
 なお、現在販売されている乾燥卵は業務用しかなく、最小の販売単位が1kg(ちなみに1kgを全部使用する場合、水3Lが必要)ということも、生卵を選択した理由の一つです(苦笑)。

食器について

 普通、軍用食器というと「飯ごう」などの野戦用食器をイメージしますが、軍隊で使用される食器は、基地などの食堂で使用されるものから野戦用まで、用途に合わせたものが数種類用意されています。
 食器の材質は国や時代によって多少の違いはありますが、陶器、ガラス、金属(ほうろう、アルミ、ステンレス)、プラスチックで作られています。今後の連載では、これらの食器も料理のメニューと雰囲気に合わせて撮影に登場させる予定ですのでお楽しみに!

(文/ケミカル・ジミー)

アメリカ軍の野戦用食器「メス・パン」。フライパン型の食器で、フタは皿として使用できます。右は第一次大戦前から第二次大戦まで使われたM1910型(アルミ製)。左は第二次大戦から1980年代まで使用されたM1942型(ステンレス製)。野戦用カトラリー(ナイフ、フォーク、スプーン)も併せて採用されました。

▲ 江戸城の天守台。天守は3度建て替えられましたが、明暦の大火(1657年)で焼失後は天守台の石垣が築き直されました。その後、再建されることはありませんでした。

メス・トレイ。ステンレス製のものは第二次大戦から使用が始まり1990年代まで使われます。1950年代に入るとプラスチック製のトレイも登場しました。写真は現在、使用されているメス・トレイ。ちなみに「メス(mess)」とは食事(一皿や一食分)を意味します。

カップも時代や用途別に様々なタイプが使用されてきました。写真左前と奥は、水筒とセットで使用する野戦用のキャンティーン・カップ。アルミ製とステンレス製の2種類。写真右の白いカップは、1940年代から50年代まで食堂や艦艇内で使用された「パイレックス」の名称で有名な耐熱ガラス製マグカップです。

NEXT    TOP    BACK