制作こぼれ話

歴群Tシャツ事始メ~オリジナルTシャツができるまで~
(歴史群像131号)

『歴史群像』がなんでTシャツ? と思われるかもしれませんが、それは発売中の本誌131号を見ていただくとして、編集部が初めて経験する商品開発の過程をちょこっとご紹介しましょう。

『歴史群像』全体としてもスタッフ個人としても、本誌付録やブックレット付き商品は経験していますが、衣料関連でしかも単独の商品開発は初めて。まぁ普通、編集スタッフはTシャツを作りませんし。少なくとも仕事では……。
 商品開発は、「ホン・モノ・ケイカク」というプロジェクトの一環です。これは、学研の各雑誌がその専門性を生かしてクオリティーの高い商品開発を行うというもの。それぞれのジャンルで経験やこだわりを持つスタッフと、ものづくりのプロであるメーカーが手を組みます。
 そんなわけで、5月の先行予約開始に先立つこと約2か月の3月半ばから開発はスタートしました。開発の段取りとしては、まずオリジナルTシャツを作るということが決定して以降は<デザイン案コンペ><ラフデザイン作成><メーカー打ち合わせ><デザイン決定・発注><デザイン修正>という流れで進みます。

デザイン案コンペ

『第一航空艦隊』のイメージ作成。艦首の向きなどを写真を参考に決めている――(とかいいつつ、ほぼ気分高揚のため)。

『海軍體操』の企画段階イメージ(右)は、1つの体操を順に並べるイメージだった。左はデザイナーへの依頼用ラフで、完成イメージに近い。

 今回は、日本海軍をテーマに絵柄が異なるものを2点開発しました。ひと口に日本海軍といっても、題材は兵器に限らず、組織や歴史に関するものなど幅広く、まず絞り込みを行いました。既存のTシャツを研究してみると、題材として人気なのはやはり兵器関連。そこで特に人気の高い題材である「軍艦」「航空機」から数点の候補を案出し、さらに変化球として、「訓練」「制度」からも題材を得て絵柄アイデアを出しました。実は商品化した『海軍體操』は、本誌編集長からのかなり強めの〝希望〟により提案したアイテムだったりします。このあたりからすでに〝編集スタッフのこだわり〟が色濃く出ています。
 会議用の提案はラフのさらにラフのようなもので、ザックリとしたコンセプト案。これを叩き台に参加したスタッフからの意見を集約、多数決も行いつつ検討を重ねました。ここで、商品化する題材を『第一航空艦隊』と『海軍體操』に絞りました。
 『第一航空艦隊』は、日本海軍が世界に誇ったほぼ空母だけで編成された部隊(ということは読者の皆さんはもとより、戦史ファンやミリタリーファンは良くご存じと思います)。日米開戦の口火を切った部隊でもあり、戦後70年の節目に、編集部としての商品化企画第一弾の題材としてぴったり、というのが決定の理由です。
 空母のグラフィックをどう表現するかは悩むところですが、『歴史群像』には記事でもよく用いる緻密な編成表や作戦詳解の作製経験があります。既存のTシャツの絵柄とはイメージがかぶらず、日常的に着られるデザインには、この部隊編成のイメージがいいのではないか。という想いから、編成表を図案化することに決定しました。
 もう一つの『海軍體操』は、変化球ではありますが、それだけに今までにない斬新なグラフィックを目指すこととなりました。 絵柄の参考としたのは海軍が使用した教範です。鍛錬目的別に12項目に分けられ、指導方法も含めた解説がイラスト付きで掲載されたもので、Tシャツのグラフィックとしては、「1ジャンルの全ての運動を順番に並べる」「12ジャンルから各1点、絵柄の印象的な運動を選んでコラージュする」という2つの方針に絞られ、最終的には12ジャンルをコラージュする方針に決まりました。
 ちなみにコンペに提案した他のアイデアも“没”ではなく、今後の商品開発の候補として残しています。第2弾にも乞うご期待!?

ラフデザイン作成/メーカー打ち合わせ

第一航空艦隊編成図は、背中いっぱいに広がる大きなグラフィックになるため、細かな部分がつぶれる危険も予想された。そこで念のために空母だけバージョンのラフも作っている。

 今回のTシャツでは、グラフィックの原版は手造りでシルクスクリーン印刷されるとのことで、誌面作りの印刷や市販のアイロンプリントとは異なり、「細部はどこまで再現できるのか」「描写に制限はあるのか」など、メーカーとの擦り合わせで解決しておくべき問題があります。そこで、メーカーのデザイナーさんも交えたディスカッションを行うため、コンペ用のラフよりも詳細なラフデザインを作成しました。
 『第一航空艦隊』を例にすると、空母だけのデザイン案と駆逐艦も加えた案の2種類を提示し、メーカーさんのデザイナーに「駆逐艦あり」を仮作成してもらう方向で決定。

デザイン決定・発注/デザイン修正

『第一航空艦隊』表面の主要艦上機は、当初は爆装・雷装が描かれていなかった。仮デザインチェック後に兵装追加版の原画を作成している。なお、原画にあるアンテナ支柱と空中線は配置の邪魔になるため省いた。

『第一航空艦隊』の仮デザイン後に修正や追加が行われた部分は、➊ロゴを、かすれた感じに変更。➋攻撃隊が艦隊に向けて送信したモールス信号と発信時間(日本時間)を追加。短時間で3本送られていることを再認識できる。➌各艦の竣工や改装時期を記載。

 メーカーとの打ち合わせでグラフィックの方向性がより詳細に絞られ、いよいよ正式なデザイン発注が行われます。版下を作り、具体的なグラフィックの配置などを指示します。続けて空母・駆逐艦のシルエット作成や、グラフィック起こし用の体操の図柄のデータ作成などを行います。
 『海軍體操』の背のグラフィックは、旧海軍の教範のイラストをベースにしていますが、このままだと線が細すぎて消えてしまう部分もあったため、デザイナーにトレスしてもらい、線を太く表現してもらっています。結果的に、元のイラストよりもさらに肉感的かつ躍動感のあるグラフィックになったと思います。
 こうした一連の作業は本誌の記事作成で日常的に行っている作業プロセスとあまり変わりません。
 デザイナーが作成したデザインは、これでOKとなるわけではなく、さらに修正を加えて完成度を高めます。例えば『第一航空艦隊』では、胸の艦上機の三機種の配置やデザイン処理、背面の艦隊編成に各艦の竣工・改修年度を入れる、真珠湾攻撃の際の電文のモールス符号を入れる、といった要素の“後のせ”をしています。どーんと大きく「真珠湾攻撃」と入れる方法もあるでしょうが、そこをさりげなくやるのが歴史群像流でしょうか。
 『海軍體操』では、背の文字を旧読み方の右から読む並びにするか、現代読みの左からにするか、で悩みました。リアルにやるなら旧読みですが、目的は教範の再現ではないので、目にしたときの分かりやすさ重視で現代読みにしています。
 なお、2つの絵柄とも袖にマークを入れています。実はこれ、デザイン開発を担当したスタッフのこだわりで、徽章や階級章、技術章などの図案が袖に入っているだけで、着たときの気持ちは高まるはず、との想いから。Tシャツといえども軍用衣料の雰囲気を少しでも出したかったからです。
 こうした修正を加えたデザイン案で最終決定となりました。本誌やウェブサイトの記事でご覧いただいているデザインです。



 駆け足でしたが、以上が『歴史群像』初のオリジナルTシャツの開発の流れです。たくさんのスタッフの手により、手間をかけて完成させたオリジナルTシャツ、ぜひ多くの方に手に取っていただきたいですね。

(文=熊右衛門尉)

NEXT    TOP    BACK