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戦国に生きた人物と近現代のヒーローを比較検討し、新たな価値観を構築する暴走コラム!

妙案じゃ!!

明智光秀 あけち みつひで

1528?~1582

 出自及び前半生は詳らかでないが、土岐氏支流明智氏の出身で、父の死後、美濃斎藤氏の権力抗争のあおりを受けて没落、自身は諸国を流浪して知識と教養を広げ、越前朝倉氏に迎えられた、という説が一般的。後に足利義昭と織田信長との間を取り持って頭角を表わし、中途採用組でありながら京の東西の要所を掌握、織田家の出世頭として盤若な地位を築くが、天正10年、一説には領地を没収されたことが引き金となり信長を殺害、自らは秀吉に討たれた。

激似戦国武将論 信長の独断 クラシックス・プラス ●文・イラスト/大野信長

【その19】

明智光秀と
デイモン・ヒル

目立っちゃおっと!!

DAMON HILL デイモン・ヒル

1960年9月17日~ F1ドライバー

 二度のF1ワールドチャンピオンに輝いたグラハム・ヒルの長男。1975年、父の事故死に伴う賠償責任のため一家は没落、自身はアルバイトで学費を捻出する一方でバイクレースを始め、後に四輪に転向。91年、F1トップチーム・ウイリアムズのテストドライバーに大抜擢されたのち、事故死したA・セナの後を受けて94年にエースドライバーに昇格。96年、史上初の親子二代ワールドチャンピオンとなるが、同年を最後にチームを解雇された。でも謀反は起こしませんでした。

条理なことに、人の評価を決定づけるのは結果でも過程でもなくて、むしろ先入観なんじゃないかと思う。
 ヒルの評価は決して高くない…っていうか低い。ウィリアムズ加入当時に注目されたのは、非力なマシンで健闘していた過去の実績よりも「親の七光でF1入りしたんちゃうんか?」という先入観だった。それでも、N.マンセル、A.プロスト、A.セナらのチームメイト─No.2ドライバー─だった時代はまだいい。英雄セナの跡を継ぎエースドライバーとなって以降、トップチームで「誰が乗ってもそこそこは活躍できるはずのマシン」を与えられながら、事実そこそこの成績しか修められないことで、彼は「やっぱりそこそこの実力しかないんちゃうんか?」という視線の中でグランプリを戦う宿命を負う。良く言えば慎重、悪く言えば地味。寡黙な英国紳士の印象そのままの走りも彼の評価に影を落した一因かもしれないが、36歳にしてようやく栄光を掴んだかに見えた男は、ワールドチャンピオン獲得とともにチームオーナーからリストラを通告されるという前代未聞の悲劇に直面したのである。当時、こんな風に囁かれたりしたものだ。
 「パッとしなかったからね。」
 …ああ、気の毒なヒル。「誰が乗っても勝てるマシン」をコツコツと開発し熟成させたのはほかでもない彼だったのに。
 ここで「光秀=能力はあるけどパッとしない奴」という、現代でも一般的な人物評を考えてみる。秀才だとは思うけど天才ではない。あんまり面白くない。小説でもドラマでも、彼はそういう人物として登場する。確かに墨俣の一夜城や金ヶ崎の退陣など、多分に脚色を含むにしろ、ライバル秀吉が残したハデな武勇伝に比べて、京畿の政務だの叡山領の返還だのといった、奥ゆかしすぎる光秀の裏方働き。そして、勝てる戦いは勝つけど、難しい局面では順当に負ける当たり前の戦果。
 ……うん、確かにパッとしないし面白くもない(笑)。少なくとも「大抜擢されるほどの能力があったの?」という疑問は払拭できていないように思う。ああ…つまり「能力があるかどうかもハッキリしない上にパッとしない奴」てことか。
 そんな光秀とヒルは境遇も残念さ具合もそっくりだ。そしてこの二人に与えられている評価=「能力があるかどうかもハッキリしない上にパッとしない奴」とは、やっぱりそっくりな要素に起因している。ひとつは血筋や電撃的な出世といった、凡才に妬まれる要素を兼ね備えてしまっていたこと。最初からハードルが高かった。しかも注目されてた。勝ってようやく及第点、先入観を覆すにはド派手なパフォーマンスが必要とされる立場だった。
 しかしながら、彼ら二人は自らのこうした「危うい地位」についてあまりにも無頓着すぎたように思う。自分のイメージを積極的にマネジメントしてゆこうとした形跡は皆無だし、そもそもそうした処世術には長けてなかったのかもしれない。
 束の間であれ、天下人もF1ワールドチャンピオンも運などではなり得ない。彼らには充分な資質はあったのだ。ただ、上手く立ち回ること…きっと、それだけが不十分だったのだろう。
 表向きは紳士の体裁を作り、裏では非情に他者を踏み台に出来る者だけが頂点をきわめる世界で、ノブナガさんはこういう人たちに親近感を覚えてしまうのでございます。
 よし、ヒルと光秀のイメージアップに協力しようじゃないか! これからは声を大にしてこう言うぞ。
 「つまらないが能力はある奴ーッ!」……ごめん駄目かも。

【その19】初出/歴史群像Vol.37(1999年冬・春号)

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