サイト内検索

戦国に生きた人物と近現代のヒーローを比較検討し、新たな価値観を構築する暴走コラム!

味方なんてしないよ~~ん。

 細川藤孝 ほそかわ ふじたか

1534~1610 

 父は室町幕府奉公衆三淵晴員で、叔父細川元常の養子となり家督を継ぐ。足利、織田、豊臣、徳川という歴代の権力者に仕えた戦国群像劇の「レギュラー」。但し、主役の座に就いたことは一度もなく、それを望んだ形跡もない。権力者の代替わりに際しても常に筋目は通し、かつ現実的に対応している。分別をもった常識人といえば常識人だが、ある意味アクのない武将。文化人としての知名度も高い。 なお、姓は一時<長岡>を称した。

激似戦国武将論 信長の独断 クラシックス・プラス

【その9】

細川藤孝と
ナットさん

おかわりはいかがかな? ほっといてくれよぅ

NATANIEL BUSSICHIO ナットさん

50歳代か? 飲食店経営者

 アメリカの青春群像を描いた人気ドラマ『BIVERLY HILLS 90210(邦題:ビバリーヒルズ高校白書/青春白書)』シリーズの登場人物で、カフェ・レストラン「ピーチピット」の店主。店の常連である若者たちを親友と呼び、時には励まし、時にはたしなめる好人物。当初は準レギュラー格であったが、第6シーズンからレギュラーに昇格。だからといって出番が増えたわけでもないのだが。本名はナタニエル・ブシッチオというらしい。ハリウッドスターを目指した過去あり。

カイン中毒、銃の暴発死、HIV感染、連邦裁判と司法取引、別腹の兄弟出現、父親の逮捕・爆死…と思いきや復活。よくもまァ思いつくものだとアキれる程ヘヴィ(ある意味乱世的?)なテーマを「これでもか!」と言わんばかりに詰め込み、しかしあくまでカラッと明るく前向きなドラマに仕立てた<ビバヒル>シリーズ。日本で製作したらさぞや救いのない作品になるに違いないのだが。まあL.A.ですものね、舞台は。
 さて、10年にわたって支持されてきたそんな戦国青春群像活劇において、ひときわイイ味出してるのが、レギュラー陣が集まるピーチピットなる軽食店の店主、ナットさんだ。当初双子の兄妹ブランドンとブレンダを軸に展開されたこの物語が、メインキャストの降番と加入を繰り返しシリーズを重ねていく中で、彼はメガ・バーガーとコーヒーを運びながらひとり淡々と出演回数を増やし、遂には「正式な」レギュラーとして番組のオープニングにも登場するようになった。継続は力なり? つまんねー継続! いや違うか。時として迷える若者達にさりげない助言を与える重要な役割も、このキャラクターは担っているのだ。
 ところで細川藤孝という男。彼は歴史という舞台の上で主役達が如何に変遷しようとも、その政権の「中枢」に存在し続けた。かつて細川首相が誕生した際には、ニュースはもとより写真週刊誌までが新首相の祖にあたる藤孝の行跡をこぞって紹介した程である。曰く、──No.4の哲学──と。
 成り上がりのイナカ者でしかなかった信長や秀吉とは違い、生まれながらに相応の地位を保証されていた藤孝には、ガツガツしたところは確かになかったかもしれない。その余裕こそが、集団の中で生きるためのポジショニング感覚──他者を活かすためにさり気なく一歩も二歩も退くことの出来る才覚──の体現に一役かっていたとも考えられる。良くも悪くも老成していた印象が強い。
No.4の哲学」か、ナルホドね。決して出しゃばらず、与えられた役割をこなし、主役を立てる……あれ? それって脇役ってコトじゃないの? そうです。脇役です。パーフェクトに。──じゃあひょっとして、池田恒興と同じ「なんとなくいるヒト」かって?
 いえいえ。義昭のピンチは救う、光秀の誘いを断り秀吉に勝利をもたらす…ここぞという場面で藤孝は活躍してます。関ヶ原でもヘンなところで頑張って家康に貢献しましたしね。
 藤孝とナットさん、二人の輝きは「理想的な」脇役を演じた者に与えられる助演男優賞のそれである。出るべきところと退くべきところの匙加減は実に難しく、誰もが出来ることでないとしても、それはあくまで脇役としての処世術にすぎない。彼等の示す「腹八分目の成功哲学」は、主役になることを放棄するという前提の上にのみ成立する、ちょっとせつない方法論と言えるのかもしれない。
 ……でもなあ……、息長いしなあ……(損得計算中)。

【その9】初出/歴史群像Vol.44(2000年秋-冬号)

編集公記 クリックしてください