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戦国に生きた人物と近現代のヒーローを比較検討し、新たな価値観を構築する暴走コラム!

毘沙門天の瞳に乾杯。

上杉謙信 うえすぎ けんしん

1530~1578

 俗に「越後の龍」。瓦解した足利政権のもと、一貫してその権威に服し、関東管領として体制維持に尽力。また信仰に厚く、自らを毘沙門天の化身と称して(後には自らを毘沙門天と称して)常勝無敗を誇った戦国武将。義を尊び、理を重んじ、私欲のために秩序を乱す者を憎んだと言われる。ストイックで、ある意味人間離れした潔癖さが人気のポイント。因みに「弾正少弼」は違法行為を糾弾する役職名。とことんそっち系の方。

激似戦国武将論 信長の独断 クラシックス・プラス

【その14】

上杉謙信と
ミカエル

私は正義…

MICHAEL ミカエル

推定年齢3歳(設定より) 人造人間

 95年劇場公開映画『人造人間ハカイダー』に登場する人造人間。72年のTVシリーズ『人造人間キカイダー』の主役・キカイダーに相当するキャラクター。犯罪の消えた奇蹟の国・ジーザスタウンの守護神であり、公安司令官として為政者グルジェフに仕え犯罪者及び不満分子の排除にあたる。自らを「正義の僕」と称し無敵の強さを誇る。蛇足ながら「ミカエル」は堕天使サタンと闘った天使の名。ヘブライ語で「神のような者は誰か」の意。

による天下静謐を望み、自ら実践し続けた希有の名将──謙信を評する常套句のひとつだ。将軍義輝から関東管領職を授かって以降、彼は天下に覇を唱える為でなく、その静謐の為だけに戦場に臨んだと伝わる。「我、筋目を要とし、天道に順い、法に従いて敵を討つ」。本音と大義名分を使い分けるのが為政者の常であるにもかかわらず、このヒトはホントに裏表なかったっぽい。少なくとも本人は大マジメで「天下静謐の聖戦」をしてたんじゃないだろうかと思う。
 戦国末期の日本の秩序が如何なる状態だったか。言わずもがな「秩序として機能し得ない、秩序という名の概念」のみが辛うじて存在する有様だった。それは足利将軍の政治力のなさに起因するものでもあり、統治制度の不備によるものでもあったが、だからこそ謙信の存在は際立っていたと言える。
「人にせよロボットにせよ、秩序のための規律は守らなければならない」劇中の台詞を以て、ここに謙信と同様の信念を持ち、戦い続けた純白の人造人間(意思を持つロボット)を紹介しよう。その名をミカエル。聖なる守護天使の名を冠したこの人造人間は、犯罪と貧困の消えた奇蹟の国・近未来都市ジーザスタウンにあって、その栄華を存続させるべく公安司令官として内外の脅威と戦い続けた。
「あなたは正義、そして私は正義の僕。」生みの親でもあり、奇跡の国を奇跡たらしめた為政者グルジェフと自分との関係を、ミカエルはそう言い表わしている(因みに最後のセリフは「私は正義」)。しかしその奇蹟の国とは、脳にチップを埋め込み、人格改造を施した「善良なる市民」を基盤に維持されている、歪んだ秩序の上に存在する国家だったのである。ミカエルはこれを盲目的に守護していたにすぎなかったのだ。
 こうした周囲の環境や行動理念に加え、謙信とミカエルの両名にはまた、各々のアンチテーゼともいうべき宿敵が存在するという点でも興味深い一致をみている。ミカエルの属する支配機構を「醜い」として立ち向かった漆黒の人造人間・ハカイダー。そして、謙信最後の敵となった中世の破壊者・信長である。
「私は正義。秩序を守る者。正義の名のもとに、お前を処刑する!」ミカエルのように謙信が言ったとすれば、信長もまたハカイダーと同じ返答をしたであろう。
「確かに…貴様が正義なら、俺は、悪だ」
 この無法者たちは自らの価値観にのみ従い、存在すべきでないと判断すれば権威も伝統も躊躇なく破壊する。困ったことに、正義という言葉に酔うヒロイズムなど欠片も持ち合わせていなかった。対決は必然だったと言えるだろう。
 だが、謙信もミカエルも気付くべきではなかったか。
 義とは美学である。損得に左右されぬからこそ崇高で、己を律するためだけに存在するからこそ気高い。他者に向けた瞬間にその美しさは損なわれ、強制すれば独善へと堕す。すなわち、秩序を守らせようとすることは本質的に義ではない。
 私欲や意地や野望で争い続けた武将は、星の数ほどあった。それとは全く異質の理由から戦っていたのは、謙信と信長くらいのものではなかっただろうか。
 結果から言えば、宿敵たちが本能的に為そうとした破壊という名の必要悪こそが、実は本来の秩序のためにはより建設的な行動であったと言える。それだけに勿体無いんだよねぇ。

【その14】初出/歴史群像Vol.40(1999年[秋・冬]号)

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