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戦国に生きた人物と近現代のヒーローを比較検討し、新たな価値観を構築する暴走コラム!

代理ですいません。

朝倉義景 あさくら よしかげ

1533~1573

 越前の名門朝倉家の当主。地理的にも家柄的にも将軍家を補佐する立場にあったが、本人は戦いを好まず(または得意とせず?)、風雅の世界に明け暮れた武将。同家を頼りに落ち延びてきた時代の「鍵」足利義昭が織田信長の許に走ると、武田・浅井・本願寺と結び反信長勢力の一翼を担ったが、同盟軍を各個撃破された上、本国へ侵入されるに及び一戦も交えずして逃走、自決した。頭骸骨はドクロ好き(?)の信長の酒肴として晒されている。

激似戦国武将論 信長の独断 クラシックス・プラス

【その12】

朝倉義景と首相

モリさん? ムネオくん?

首相 しゅしょう

50代?

 松本零士先生の名作漫画『宇宙海賊キャプテンハーロック』に登場する地球連邦政府のトップで本名は不明。自らの既得権益に執着し、ゴルフを愛し、迫り来る外的脅威には「見えないフリ」に終始した、危機管理能力ゼロ、責任感ゼロの理想的な(?)ダメ指導者。無法者ハーロックを怖れながら、それでも一応は、裏で抵抗する姿勢を見せたりもする(が、もちろん本人は戦わない)。本棚の蔵書は全て日本語タイトルなので、残念ながら恐らくは日本人だ。

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数年前、アポ無しでご自宅に押し掛けた小学生は私です。松本先生、その節はご無礼を致しました(謝)。
 西暦2977年、地球は未知なる生命体の侵略を受けようとしていた。だが地球連邦政府は、一部の心ある者の忠告を「脅威などあり得ない」と黙殺して、ただ安穏の日常を貪るだけであった。「夏の雷鳴に腰を抜かす」無能な腑抜け者ばかりの地球の人間を侮蔑し憎みながらも、「自分の信じるもののためだけに」強大な外敵と戦いを繰り広げたのが、ご存知ドクロの旗を掲げる法外の者・宇宙海賊キャプテンハーロック。
 物語の登場人物のひとりであり、ハーロックの対極に位置する人物──つまりは卑怯者の象徴として──描かれていたのが、この「首相」でありました。「サイレンが鳴っておるのに対空兵器が動かんのは何故か? なに警備隊が逃げた? そらいかん! 我々も逃げよう!…あ、ゴルフセットは忘れんようにな──
 創作された物語であるからして、登場人物にも多大な誇張があるハズ。そうそう現実の人物と類似するコトはないよね……って、いました。朝倉義景。領国越前は当時有数の文化都市として発展し、当の義景も足利将軍家と密なる繋がりをもって「義」の一字を拝領する程の責任ある立場にいながら、京での相次ぐ政変にも天下の収攬にもまったく無関心であり続けたノンキな武将。
 そのくせ妙なトコロで権威を誇示したがる性癖があるらしく、信長が天下統一に名乗りを挙げると、その対抗勢力に加わり織田軍に文字通りの横槍を入れ続けた。とは言えここからが義景の「首相」たる真骨頂。本人は殆ど合戦には参加せず、部下に軍の指揮を任せていたばかりか、あと一歩の局面まで信長を追い込んでいながら兵を退いてしまうこともしばしば。何がしたかったんでしょうこのヒト?
 信長を葬れる千載一遇のチャンスを潰されて、共同戦線を張っていた信玄は激怒したらしいけど、マンガでもあり得ない展開だもんなぁ…。遂にはそうした勝負カンのなさと他人任せの行動が祟り、順当に滅亡してしまった義景なのですが、彼には滅亡よりも惨めな現実が控えておりました。
 では整理してみましょう。後に15代将軍となる「掌中の玉」足利義昭を信長の許へ渡してしまったのが義景、信長による武力統一戦の最初の口実を作ったのが義景、中途半端なピンチを作って信長の強運を喧伝してしまったのも彼ならば、叡山焼き討ちの契機を作り、信長を後世に残る「天魔」としたのもこの男…。
 そう、「首相」が首相として機能しなかったが為に、海賊ハーロックを英雄にしてしまったように、義景は器量に欠けていたばかりに、結果としては皮肉にも「破壊の英雄・魔王信長」の伝説を演出する最大の功労者として後世に名を残すハメになってしまったのである。もちろん、永遠に。
 このコラムは「新たな視点から見た武将の再評価」がメインテーマ。だから通説とは逆の評価になるのが通例なんですけども……義景の場合は再評価したらますます悪くなってしまった。
……ううむ、だがいかんともし難い。ごめん義景。
 本稿を読んで義景と首相を笑った皆様、でも今の我が国と我が国の政治家を見てたら、あながち絵空事じゃないかもよ?
 もちろんその前に、他人の事を笑えるかどうかは別問題。
 誰だよあんな首相を議員に当選させたのわぁっ!

【その12】初出/歴史群像Vol.54(2002年8月号)

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