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THE WAR MOVIE セレクション

【第22回】 『サハラ戦車隊』(1943・アメリカ)

 戦争映画は、大きく2つに分けられると筆者は考えている。1つは『史上最大の作戦』や『遠すぎた橋』、『バルジ大作戦』のような、1つの歴史的大作戦を扱った「スペクタクル」型。そしてもう1つが、『戦争のはらわた』やドイツ映画の『橋』などに代表される、少数の兵士や部隊を扱った「局面」型だ。これはかなり乱暴な分類だとは思うが、今回紹介する『サハラ戦車隊』は、後者の「局面型戦争映画」といえる。
 1942年6月、ドイツ軍がトブルクを占領して今まさにエル・アラメインの戦いが始まろうとしている頃、北アフリカに派遣されていた米陸軍の小規模なM3戦車部隊の生き残った1両が、はぐれた本隊との合流を目指し、行進を始める。途中、英軍衛生部隊(自由フランス軍のフランス兵含む)の生存者、英連邦のスーダン兵、イタリア軍やドイツ空軍の捕虜も収容して、いつの間にか十数名に膨れ上がり、極度の水不足に陥った。彼らは、砂漠の廃墟で井戸を発見、一息つくが、そこには同じく水不足に苦しんでいたドイツ一個大隊も向っていた……。
 戦争映画というと、男の義務だの、使命感や友情だのが戦う理由になりやすい。まあ、この映画も、ドイツ軍が接近していると知った時に、さっさ逃げればいいものを、主人公のガン軍曹が、敵を足止めして兵士の義務を果たそう、などと言うし、エンディングも「彼らは勇敢に戦った」的な終わり方をしている。
 しかし、本質的には砂漠における水の争奪戦である。まるで、映画『マッドマックス』かマンガ『北斗の拳』のような設定だが、ちょっと考えてみると、実際、一時期でも本隊からはぐれてしまった当時のドイツ軍や英軍の小部隊などは、本当にこんなもんだったんじゃないだろうか? もちろん、敵との遭遇に注意しつつ、兵士として行動しただろうが、本隊と合流しようと必死に移動している兵士の頭の中は「水っ!」しかなかったに違いない。
 武器や爆弾の補給以外にも、兵士にとって水や食糧は不可欠だ。これが北アフリカという環境ではいわずもがなである。作中、半ば枯れている井戸の滴を、長時間かけてため込むシーンや、やっと溜まったカップ一杯の水をガン軍曹が「一人、三口までだ」といってみんなで回しのみするシーン、後半、水がなくなってボロボロになりながらも攻撃するドイツ軍などを見ると、兵士として戦っているだけでなく、生存のための闘争のようにも見えてくる。そういう意味で、『サハラ戦車隊』は「喉の渇く戦争映画」、ひいては少数の兵士の現状に焦点を当てた戦争映画と言えるだろう。
 あと、この映画の製作年にご注目。実際の公開は1951年だが、製作は1943年。そう、作中の設定の1年後の製作なのだ。だから、出てくるM3戦車は本物である。よく宣伝で言われる「本物の戦車が撮影に用いられた!」というレベルではなく、当時の米軍の本物のM3なのだ。さらに、ドイツ軍が卑怯者に描かれているが、これも製作時期を考えればさもありなん。とはいえ、単なる戦意高揚映画なんぞと比べると、はるかに娯楽性は高い。『サハラ戦車隊』は1995年に『デザート・ストーム/新サハラ戦車隊(未公開)』としてリメイクされ、これもビデオなどで発売されたようなので、入手したら旧作と新作を見比べてみて、時代の価値観の相違を考えてみるのも一興だろう。

(文=バイオ大森)

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【第21回】『クレオパトラ』(1963・アメリカ)

『クレオパトラ』

作品名:クレオパトラ スタジオ・クラシック・シリーズ
発売元:20世紀フォックスホームエンターテインメントジャパン
価格:DVD2枚組 ¥2,990円(税込)
絶賛発売中!
©2006 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

 ローマ史の中でも最も魅力的な共和政末期の時代を再現したのが、かの有名な映画『クレオパトラ』。ファルサロス戦からカエサルのエジプト遠征と暗殺、フィリポイ戦、アントニウスとオクタウィアヌスの確執、アクティオン海戦……という激動の歴史を、エジプト女王クレオパトラと、カエサル、アントニウスとの愛を中心に描いた大作だ。
 しかしこの作品、すこぶる評価が低い。何しろ制作段階を通じて悪夢のようなトラブルが続発、それだけで一冊の本ができるほどの混乱ぶりだったのだ。スタッフ・キャストのたび重なる交替、ロケ地の変更、そのたびごとの撮影中断などから来る出費で、膨大な超過予算となり、主役のテイラーはといえば、わがまま言うわ、病気で死にかけるわ、あげくにバートンとの不倫スキャンダルは起こすわ……。宣伝効果はあったものの、最後は脚本担当を兼ねた監督マンキーウィッツの超人的奮闘によって、何とか完成までこぎ着けたのである。
 フォックスは経営危機を迎え、社長が交替。この時潰れていたら、後のスターウォーズのヒットもなかった。その上、1部3時間の2部構成で、計6時間、第2部「アントニウス編」は数か月後に公開するはずが、テイラーとバートンが破局して集客が落ち込むのを恐れた新社長が、「話題になってるうちに、まとめて公開しちゃえ」と2時間以上カット! 強引に1部完結にされたのだった(結局結婚したのにねぇ)。
 すっかり悪いイメージが先行してしまった本作品。確かに傑作じゃあないが、オウム返しに繰り返されるほどの駄作では断じてない。大幅なカットでキャラの説明不足が生じ、1本にしたため冗長にもなったが、古代ローマの栄光と悲劇が甦る。知的な脚本やセット・衣装・道具類の豪華さ精密さは目を見張るし、エキゾチックな音楽もよい。主要人物もイメージ通りで、個人的には、威厳があり機智にとんだカエサルが一番だが、クレオパトラも女王の貫禄充分。自滅してゆく己を見つめる、哀感漂うアントニウス像も良かった。オクタウィアヌスは、冷酷な策略家の面が強調されているが、史実どおり肝心な戦闘では病気で寝ている。
 むろん本作の主題はメロドラマ。戦闘(戦場)シーンは監督の趣向もあって、意外と控えめだったり、軍装はローマ史劇の常で、少し後代の帝政期のイメージだったりするが、それでも見応えは充分だ。
 冒頭に登場する戦闘直後のファルサロスの場面は、鎧兜を回収され下着姿で散乱する戦死者、随所で黒煙を上げる火葬壇、鎖で数珠繋ぎにされた捕虜、運ばれる負傷者、酒盛りするカエサル軍将校たち、祈る神官等々が織りなす情景を、カエサルが見下ろす壮大なイメージで、掴みは抜群。
 またカエサルのアレクサンドリア防衛場面では、城壁に投石器で焼夷攻撃をかけるエジプト軍に、周囲を楯で覆った亀甲隊形のローマ軍が反撃。アクティオンの海戦では、実物大のガレー船を使い、投擲兵器で敵船のオールを破壊、衝角でその船腹を衝き、はね橋を渡して斬り込む攻撃法を再現した。大型鈍重なエジプト艦と軽快なローマ艦の対比も面白い。
 一方、フィリポイの戦場で、アントニウスと麾下軍団兵がお互いに健闘を称えあう場面に、当時の軍団指揮官と兵の私兵的繋がりを窺う事もできる。
 ハリウッドでは6時間版復元の企画もあるとか。もし完成すれば『クレオパトラ』の真実の姿に出会える訳で、初めてこの作品の正当な評価が出来るというものだ。一挙に6時間観て、古代のローマにどっぷり漬かりたいと今からワクワクしているのは……エーッ筆者だけ!?

(文=竹之内レギオ)

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