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千年の時を刻む出羽の古道 「六十里越街道」

【第3回】田麦俣を経て湯殿山へ

↑田麦俣の多層民家(左)  六十里越街道の面影を残す山道(右)

  江戸時代、湯殿山登拝が盛んになったころ、注連寺や大日坊で入山の許可を得た行者の多くが宿泊地としたのが田麦俣(たむぎまた)の集落である。また、ここには関所も設けられていて、東側の志津と並び六十里越街道の交通の要所として、参詣者のみならず多くの人と物資がこの地を行き交った。
 明治時代の後半に馬車が通れる新道が開通したため、その多くは廃業したが、江戸時代には集落にあった30数戸の人家のうち6、7軒が旅籠を営んでいたという。現在は国道112号線と山形自動車道により、庄内地方の酒田市・鶴岡市、あるいは県都の山形市とも1時間あまりで結ばれているが、兜造りと呼ばれる独特の茅葺き屋根の民家が残るこの集落は、今もかつての雪深い山あいの趣に溢れている。 
 田麦俣から湯殿山へと至る街道は、ブナの原生林や緑に繁る草木に包まれた急な坂道も残り、また景勝地にも恵まれる。歩いてみたなら、湯殿山を目指した昔日の参詣者の気分を味わうことができるだろう。

田麦俣の集落

 旧国道112号から脇道に入り、田麦川に向かって急斜面を下ったところが集落の入り口。傾斜地に張り付くようにして形成されたこの集落は、農業に適する土地が少ないため、江戸時代、鶴岡城下で使われる薪の切り出しと行者の宿泊・賄いが重要な収入源となっていた。








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多層民家・旧遠藤家住宅

 重厚にして繊細な曲線に描かれた茅葺き屋根は、芸術的なまでの美しさを醸している。採光や通風のために高窓が設えられた妻側(屋根の棟と直角の側)から見た姿が、武者のかぶる兜のようであることから兜造りと呼ばれる。江戸時代、この地方の家屋は寄せ棟造りであったが、明治時代に入り養蚕が盛んになって、このような形に屋根が改造されたという。

 内部は、1層目が家族の居住スペース、2層目が作業場と物置、3層目が厨子と呼ばれる養蚕のためのスペース、そして4層目が天井厨子(物置)となっている。ひとつ屋根の下で日常生活も仕事も行う多層民家は、谷あいの狭小な土地、豪雪という条件のなかで暮らした人々の知恵に育まれた芸術なのだ。  インフォメーション クリックしてください 

1階は囲炉裏のある家族の居住スペース

2階の作業場

3階の厨子には蚕の棚が並ぶ

4層目の天井裏

↑若夫婦の寝室の床下はニワトリ小屋になっている
←縄の暖簾で仕切られたトイレ

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番所跡(時計塔)

 六十里越街道の交通の要所だった田麦俣には、番所が置かれていた。現在はその跡に小さな時計塔が建てられている。











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蟻腰坂

 湯殿山方面へと向かう旅人たちが田麦俣の集落を発ち、最初に迎える難所。あまりの急勾配のため、蟻のように這って上らなければならない、また蟻も転げ落ちるほどだったともいわれたことが名前の由来。多数の行者が訪れたときは、遠くから蟻の行列のように見えたとも伝えられる。旧国道112号と分岐する入り口に六十里越街道の標識が建つ。

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七ツ滝

 田麦俣から湯殿山方面へ旧国道112号を進み、蟻腰坂の上り口を過ぎたところに開ける高台が、この優美な光景のビュー・スポット。茂る木々の合間を上下段合わせて落差100m以上、白糸のような流れが山肌を縫う。










弘法茶屋跡 ここにはその昔、夏茶屋があった。弘法大師が独鈷(仏具)で大地を突いたところ湧き出したという清水がある。

千手ブナ 街道の途中でひときわ目を引く巨木。千手観音のように枝を広げているためこの名がある。

護摩壇石
弘法大師がここで護摩を焚いて祈祷したと伝えられる。

大掘抜(おほのぎ)

 湯殿山の参拝口まで、あと少しの地点。田麦俣からずっと急な上りばかりだった六十里越街道も、大掘抜あたりは暫くなだらかな道が続く。山を掘り抜いて造られたこの道は、ブナの林に包まれ、爽快な気分に浸ることができる。



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遥拝所

 細越峠を過ぎ、街道から数100メートル入ったところで、湯殿山の赤い大鳥居や参籠所を望むことができる(写真中央)。雪が深くて登拝できない時期に訪れた参詣者は、ここで遥拝したといわれる。




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宿泊案内  湯殿山ホテル

湯殿山ホテル本館

昭和11年に立てられた旧館

 国道112号から湯殿山参籠所へとつながる有料道路の料金所前に建つ。山岳地帯を縫う六十里越街道のちょうど中間に位置するこのホテルは、街道を歩いて旅する者にとって貴重な宿のひとつ。ホテル裏から参籠所まで、林の中を抜ける旧湯殿山参道が続く。有料道路を使ったのでは、とうてい味わえない趣がある。ホテル前には釣り堀もある。日帰り入浴も可。10時~16時、入浴料400円。
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