「歴史群像」の103号87ページからの記事『WWⅡ ドイツ民間防空』に関連して、筆者の服部雅徳氏より、連合軍のドイツ本土爆撃に関する詳細なデータ のご提供をいただきました。本誌記事の参考資料として、ご参照ください(禁・無断転載)。
「独本土被爆概況(総合)」について
服部 雅德
1 説明
(1)独本土とは、占領地を除く独帝国内を指す。但し東プロシャと波蘭、チェコ共有領土分は原則として除く。
(2) 「総合」とは、Jorg Friedrich著、Allison Brown 英訳『The Fire The Bombing of Germany1940-1945』(Fire){2002,Propylaen Munich-2006, Translation Columbia UniversityPress, U.S.A }に示す独本土内の被爆と被害状況、大英帝国国立公文書館(The Public Record Office)所蔵の英空軍戦略爆撃機部隊の戦時記録を、爆撃による被害結果を独地方公共団体へ照会し回答をとりまとめたMartinMiddlebrook & Chris Everitt編・著『The Bomber Command War Diaries 1939-1945』(BCWD){1985,ThePenguion Group,England }、対独戦へ1941年12月8日以降参戦した米陸軍航空部隊(AAF)の爆撃記事を示す米空軍公刊戦史『TheArmy Air Force in World War Ⅱ VolⅡ及VolⅢ』(AAF){1949, The Universityof Chicago Press U.S.A }を主資料源としていることによる。
内容は、それらの全訳ではなく、読者の独本土被爆と関連全般状況の理解を支援するため、英空軍、在英(後には在伊を含む)米飛行部隊の爆撃と、独住民の被爆の重要と思われる部分のみを私が選択し、暦日的に一括要約編集したものである。内容は投弾(着弾)、飛行部隊の被害、地上被害のあるものを対象としている。実際の空襲で目的地上空へ達しながら投弾できなかったものも少なくなく、地上では来襲も知らされなかったものもあり、「空襲」で編集すれば相当な頁を消費し内容は不満となることから、厳密には根拠が不十分なものも一部含め敢えて「被爆」を主体とした。
(3) 表の読み方は次の通りである。
[年]:1940~1945年の末尾2桁のみ表示。
[月日]:数字のみ記載・「N」は夜間爆撃を示す。昼間爆撃には英字はない。
[爆撃目標]:主として地名を挙げ、具体的目標は[備考]にも示した。カタカナ地名は辞書等にあるドイツ語的発音を記載した。
[爆撃部隊]:「BC」は英空軍爆撃機空軍。(以前は「爆撃機集団」としていたが、米飛行部隊部隊が「空軍」の中にCommand(集団)があるため「爆撃集団」では「空軍」以下になることから、格式を揃えるために「ナンバー空軍」以上の空軍の意味で「爆撃機空軍」とした。なお、当時の英空軍で同等の部隊は「戦闘機空軍」と「沿岸空軍」のみである。「コマンド」の訳へ「軍団」を使用する向きもあるが、一般に「軍団」は陸軍地上部隊の「師団」と「軍」の中間部隊の呼称で、米軍の階級は中将で、BCの指揮官は空軍大将であることから軍団長にはならない。このため、航空部隊で使用するのは、一々断る必要があること、英空軍のBomberrCommandは複数のGroup(飛行群ではなく将官を指揮官とする飛行連隊、指揮官の階級からは米軍のナンバーエアフオース指揮官又は航空師団長相当)であることからBCを米軍のナンバーエアフオースの上位にある「戦略空軍」と同意義の爆撃機空軍とし、[BC]と記載した。
「8AF」は戦略爆撃任務の米第8空軍、「9AF」はノルマンデイ上陸の「連合軍」支援任務の戦術航空作戦の米第9空軍、「15AF」は戦略及び戦術航空作戦の米第15空軍、「1TAF」は「連合軍」所属の米・仏軍混成戦術飛行部隊、「2TAF」は英軍集団配属の戦術飛行部隊の略である。「部隊記号」の次の数字は「基地発進機数」で爆撃地点へ飛行しない牽制・陽動機数を含む。
[投弾機種]は投弾又は地上攻撃等をした機種を示す。「Ha」はHampden 、「Wh」はWhitley、「We」はWelllington、「Bl」はBlenheim、「St」はStirling、「Ma」はManchester、「Hf」はHalifax、「La」はLancaster、の英空軍重爆撃機を、「Mo」は爆撃及び爆撃誘導用のMosquito爆撃機を示す。[備 考]欄の機種の記載順序は、当該爆撃での機数の多い順序で、これにより作戦参加重爆撃機の変遷が解る。
AAFは戦略爆撃機の機種が記載あるものは「B-17]、「B-24」で、無記載は資料に無記載で、中爆以下は機種の記載あればその機種を、機種記載のないものは中型爆撃機はMB、戦闘爆撃機はFB,戦闘機はFで記載している。
[投・着弾]で着は地上側の記録による「着弾」数で、特記がないのは爆撃機側の投弾を意味する。高性能爆弾は通常500ポンド爆弾で、それ以外の判明しているものはその旨を示している。
[建物被害]と[人的被害]は、『Fire』記載内容又は『BCWD』の被爆した市町村へ照会し回答もしくは『AAF』の戦略爆撃調査結果等の被害の概要で、被害に複数記事あるときは『Fire』記載内容を優先させた。
無回答の被害に対しては投弾側の目標と着弾観察を記載した。記載の無いのは雲上爆撃等で空中からの確認も、着弾被害が無かったか、被害記録が無いか、無回答のものと思われる。
「L」は攻撃した英・米側の独本土上空での墜落機数を、「3L」は3機墜落等を示し、英本土帰投時の墜落は含まない。
2 用途
この「独本土被害概況(総合)」は、筆者が新規に編纂したもので、知る範囲では日本には存在しないと思われる。英・米軍の対独航空戦と、それに対する地上側の状況を対比可能なことから、独本土航空戦の理解が容易になると思われる。なお、この資料の掲載にあたっては、前記、各出典と、株式会社学研パブリッシング、教養実用出版事業部関係各位にお世話になったことに御礼を申し上げる。
年度ごとにリストを分けてあります。