THE WAR MOVIE セレクション

映画好きの編集者がリレー形式で、戦史を題材にした映画をご紹介するという、雑誌『歴史群像』の名物コーナー。記念すべき第1回は、2000年7月発売の「夏-秋号(No.43)」に掲載されました。

【第16回】『遠すぎた橋』(1977・イギリス/フランス)

遠すぎた橋

作品名:遠すぎた橋 <アルティメット・エディション>
監督:リチャード・アッテンボロー
DVD発売元:20世紀フォックス ホームエンターテイメント
価 格:¥2枚組 ¥2,848(税込¥2,990)  DVD発売中(2008年9月現在の情報です)
©2008 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

 超大作である。制作費90億円、当時の大スターが大挙出演して連合軍の一大作戦を描くという、まさに「映画界の物量作戦」を地でいった作品だ。その一大作戦とは「マーケット・ガーデン作戦」。
 ノルマンディー上陸から3か月後の1944年9月、イギリスのモントゴメリー将軍は一つの野心的な計画を立てた。オランダにある5つの橋を空挺部隊で奪取、地上軍は空挺部隊が持ちこたえている間にこれらの橋を通過し、ドイツ軍の態勢が整わないうちにルール工場地帯を孤立化するというもので、空挺作戦を「マーケット作戦」、地上作戦を「ガーデン作戦」と呼んだ。だが敵兵力の見積もりの甘さ、地上部隊の進撃路と補給線を一本の幹線道路に頼ったこと、その他諸々の悪要因によって、作戦は失敗に終わるのだった…。
 この「遠すぎた橋」、公開当時の評価はあまり良くなく、観客動員数も90億円を回収できる程ではなかった。いろいろ理由はあるが、その中の一つに、観ている観客が「今、何が行われているのか解らなかった」ということが挙げられる。空挺3.5個師団、地上軍1個軍団が参加し、100キロにもおよぶ範囲(正確には進撃路の直線距離だが)の大作戦を扱ったため、戦史、特に第二次大戦のヨーロッパの戦いに詳しくない観客(実際、一般の観客のほとんどがそうだろう)は、「地上軍は今、何処にいるの?」「今、橋を架けているところはどこ? えっ? ソン橋? じゃあ、アルンヘムってその近く? え、違う!?」という状況に陥ってしまったのだ。実際、「遠すぎた橋」をテレビ放映した時、視聴者が解るように局側が画面の下の方に「現在の状況図」を随時、入れて放送していたほどである。
 だが、壮大な一大作戦は、多数の局面によって成り立っていることを忘れてはならない。「遠すぎた橋」は、各局面が“戦争アクション”として良く描かれているため、飽きさせない作りとなっている。
 例えば地上軍の進撃が始まるシーン。名優マイケル・ケイン演ずるバンドール中佐の先頭部隊はすぐに進撃しない。まず砲兵の砲撃があり、その火線が前進するのに合わせて戦車部隊が進撃を開始するなど、正しい用兵を再現している。また森に布陣しているドイツ対戦車砲部隊も、先頭車両をやり過ごしてから砲撃するなど、緻密に描かれている。それでありながら、戦闘シーンはさすが90億円かけているだけあって、派手なものに仕上がっているのだ。
 アルンヘムを押さえたイギリス空挺部隊の戦いも、時間が経つにしたがって部隊がボロボロになっていく状況が、激戦を丁寧かつ大胆に描くことで観客に伝わってくる。降伏した時に、指揮官のフロスト中佐(アンソニー・ホプキンス。『ハンニバル』のレクター博士だ!)がマクシミリアン・シェル演ずるドイツ軍将校からチョコレートを貰い、「イギリス製だ」と言われるシーンは、「敗北」という虚脱感をうまく描いているといえよう。
 つまり「遠すぎた橋」は、マーケット・ガーデン作戦をベースに各局面を集めた「オムニバス映画」として観ると、俄然、面白くなるのだ。同じ空挺部隊でも、冷静で紳士然として描かれているイギリス軍、荒削り・ノリの良さ・少しコミカルだがプロフェッショナル、という描かれ方をしているアメリカ軍というように、国別の性格分けも楽しめる。
 DVDはレンタル店にも置かれているようなので、ぜひお楽しみ下さい。

(文=バイオ大森)

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【第15回】『グローリー』(1989・アメリカ)

グローリー

作品名:グローリー デラックス・コレクターズ・エディション
監督:エドワード・ズウィック
DVD発売元:(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
価 格:¥1,980(税込) 好評発売中

 アメリカの南北戦争では、18万人もの黒人が北軍のために戦い、勝利に貢献したという。その先駆けとなったマサチューセッツ第54連隊の苦闘を史実に基づいて描いた作品。
 ボストンの裕福な奴隷解放論者の子、若き北軍士官ロバート・グールド・ショー(マシュー)は、1862年、戦闘で負傷して帰郷したおり、知事の口から、大佐として新たに黒人志願兵のみで編成する連隊の指揮をとるよう勧められる。
 志願した黒人たちは大半が逃亡奴隷だが、戦いに勝つことが自らの解放に繋がると信じる彼らの士気は高く、理想に燃えるショーも、彼らを一人前の兵士に育てるべく、厳格な訓練を施す。
 しかし彼らは北軍にも根強く存在する差別に苦しみ、靴や軍服も支給されず、あまつさえ南部からは黒人連隊の兵も白人士官も処刑するとの宣言を出されるが、屈しない。さらに連邦政府が黒人兵の給与を白人より低く決めたことを知ったショーが、抗議のため自らの給与の受け取りを拒否したことで、彼と黒人兵の間には固い絆が生まれるのだった。
 やがて軍装も整い、出撃を命じられた連隊は勇躍戦場へと向かうが、任務といえば肉体労働や、民家への放火を命ぜられるばかり。怒ったショーは旅団長の不正をネタに、遂に実戦参加の道を開き、54連隊は見事に初陣を勝利で飾る。
 その頃、北軍はチャールストン港を扼する南軍の堅塁ワグナー要塞を攻めようとしていた。ショーは黒人部隊の存在と真価を知らしめるべく、あえて要塞攻撃の先陣という決死的任務を志願する。前夜、黒人霊歌を歌い、自由な人間としての誇りを胸に戦うことを決意する兵士たち。そして翌日、ショーを先頭に要塞へと突進する54連隊に、南軍の鉄砲弾が雨霰と降り注ぐ……。
 戦闘シーンは3つ。冒頭、ショーが負傷するアンティタムの激戦の場面は、1000数百人のエキストラにより、砲撃の炸裂する中、敵味方の戦列が相対する様を大きなスケールで再現している。また連隊が初陣を果たすジェームズアイランドの戦いでは、南軍の騎兵と歩兵を林の中で待ち受け、一斉に射撃と銃剣を使った白兵戦で撃退するまでを、緊張感溢れる演出で見せる。
 いずれも大迫力だが、クライマックスのワグナー要塞攻略戦は、突撃までのショーや兵士の表情も丁寧に描写し、砂浜を走り、砂丘を乗り越え、やがて夜間の要塞突入に至るまでの凄惨な死闘を描き、最大の見せ場になっている。
 これらのシーンにはエキストラのほかに、数百人のリエナクター(欧米中心に、徹底した研究・考証をして、過去の時代の軍装や戦闘を再現する趣味の人々)が無報酬で協力・参加しており、宿営地での生活や野球風景などの場面にも腕を振るっている。また、当時の前装銃の装填・発射を間近に見せる訓練場面も興味深い。
 出演者では、アカデミー助演男優賞を獲得した反抗的なトリップ役のデンゼルや、リーダー格で曹長に任命されるローリンズ役のモーガンなど、今をときめく黒人俳優が圧倒的な存在感を放つ。
 一方、童顔・小柄でいかにも良家のお坊ちゃん風のマシューが、ちっともヒーローらしくない冒頭から、成長し果敢に運命に立ち向かうクライマックスまで、実在のショー大佐を見事に演じている。
 ラストは切ないが、人間として認められるために命を賭けるしかなかった黒人たちと、恵まれた環境に育ち、もっとも安穏な生き方も有り得たであろう一白人が、ともに解放の理想に殉じようとする姿はやはり胸をうつ。最後の突撃を前に、海鳥の舞う波打ち際を見つめる、ショーの眼差しは印象的だ。

(文=テルシオ・工藤)

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