THE WAR MOVIE セレクション

【第6回】『鬼戦車T34』 (1965・ソ連)

鬼戦車T34

発売元:㈱アイ・ヴィー・シー
作品名:鬼戦車T34
監督:ニキータ・クリーヒン/レオニード・メナケル
価格:¥2,940(税込)好評発売中

 60年代までは「バルジ大作戦」や「パットン大戦車軍団」といった娯楽戦争映画が流行した。今回は、あの(なぜか“あの”が付いてしまうが)ソ連が1965年に作った娯楽戦争映画「鬼戦車T34」(なんともスゴイ題名である)を俎上に載せたい。
 「ソ連」と「娯楽」…。うーん、実感が湧かないかも知れないけど、今回紹介する本作は間違いなく「娯楽戦争映画」なのだ。
 1942年、東部戦線近くのドイツ兵器実験場で標的にされていた捕獲T-34には、動かすため捕虜が乗せられていた。意志強固な操縦手イワン、古参兵ピョートル、少年兵アリョーシャ、そして元コメディアンのフランス兵ジャンの四名だ。しかし彼らが乗ったT-34は、実験場をめちゃくちゃにし、有刺鉄線を乗り越えて走り去る。こうしてロシア人三名、フランス人一名の、命を賭けた逃避行が始まった…。
 ひとこと言っておくと、テスト時の標的を盗んだため、逃亡するT-34は砲弾を積んでいない。したがって追うドイツ軍とのハデな砲撃戦などは皆無で、T-34は逃げ回るだけだ。しかし走り、跳び、丘を駆け上がるなど、まるで「生き物」のような躍動感を感じさせてくれる。おそらく、「戦車の躍動感を見せる」という点で、この映画は映画史上トップ・クラスに位置していると言ってもよいだろう。(劇中のT-34はもちろん実車)。
 さらにT-34が一発も弾を撃たない(というか、撃てない)ことが、追う者と追われる者の緊張感を高め、逆にアクション性を強調する結果となっている。最近のハリウッド映画によく見られる、ハデなだけの戦闘シーンを盛り込むよりも、演出とカット割りに注意すれば、良質なアクション映画は作れるといういい見本である。
 主人公のイワンを始めとするロシア人の無骨さ、そしてコメディアンのフランス人ジャンの陽気さなど、登場人物の描写もよい。ひょんなことから、偶然仲間となった四人だが、逃亡していくうちに立派なT-34戦車の「チーム」に見えてきて、見る者が感情移入してしまう。後半になってくると、追われて走り回る一両のT-34が「健気」になってくるから不思議だ。
 また、この映画には「笑い」がある。例えばある町の広場に来たT-34を、通りの角や屋内から住民が恐る恐るのぞき見るシーンは、突然躍り込んできた戦車を見て怯える住民と、逆に追われてせっぱ詰まった状態の戦車というギャップの可笑しさが、うまく伝わってくる(あまり細かく書くと観たときに笑えないのでこれくらいにしておきましょう)。そもそも主人公以下、言い換えれば「でこぼこ四人組」という、コメディ映画の王道的組み合わせを踏襲しているのだ(もちろん、本作はベタなお笑い映画ではない)。
 確かに「国策的説教臭さ」が皆無というわけではない(だって“ソ連映画”だもん)。しかし本作を楽しむことの邪魔になるほどではないし、監督以下スタッフはこうした「説教臭さ」を極力なくそうと努力したあとが窺える。もしそうだとしても、これは不思議でも何でもない。娯楽というのはそもそもそうした「国策臭さ」や「説教臭さ」を排除、ないしは観客に感じさせないことが大前提だからだ。
 ソ連では国家批判を公然としない限り、基本的には何でもOKだった。「ソ連=冷たい・娯楽がない」というのは、我々が勝手に作り出した虚像だったのである。1962年6月22日、ドイツ東部で起こった実際の出来事を映画化したという、この「北の国から来た娯楽戦争映画」を、ぜひ楽しんでいただきたい。

(文=バイオ大森)

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【第5回】 『戦争と平和』 (1965~67・旧ソ連)

戦争と平和

発売元:㈱アイ・ヴィー・シー
作品名:戦争と平和
監督・主演:セルゲイ・ボンダルチュク
価格:¥15,540(税込)好評発売中

 一本の映画がもとで、まるで関心のなかった戦争に興味を持つことがある。旧ソ連のセルゲイ・ボンダルチュク監督による『戦争と平和』『ワーテルロー』といった作品で、200年も昔のナポレオン戦争ファンになった人も多いはず。そこで今回は世界映画史上に語り継がれる超巨編『戦争と平和』。
 言わずと知れたロシアの文豪トルストイの原作を、旧ソ連が国家事業として威信を賭けて映画化したもので、四部構成の全上映時間は7時間以上、製作5年、登場人員59万5000余人という、正に記念碑的作品だ。3人の貴族の男女を主人公に、上は皇帝から下は農民まで様々な階層の人物が織り成す、19世紀初頭ロシアの一大叙事詩である。戦史ファンにとっては、かのモスクワ遠征を頂点としたナポレオンの対ロシア戦をスクリーンで見られるのが魅力だが、その出来が半端でない凄まじさなのだ。
 作品に描かれるトルストイの世界観はさておいて……。スペクタクルな見せ場は、大舞踏会や、巨大なモスクワのセットとその炎上シーン、雪原を敗走するナポレオン軍など幾らでもあるのだが、何と言っても注目は三つの大きな野戦場面である。第一部のシェングラーベンとアウステルリッツ(いずれも1805年)、第三部のボロディノ(1812年)、どれも息をのむ迫力だが、中でもモスクワ前面におけるボロディノ会戦の場面は、原作でも重視されているだけあって、映画史上空前絶後のスケールといって過言ではない。ナポレオン戦争屈指の大激戦がフルスケールで展開する感じで、欧米の「超大作」とは次元が違う。もちろんCGなど無い時代で、大平原に膨大な人馬を投入して再現されたのである。
 撮影にはソ連正規軍12万4000余人と馬3万5000頭が動員されたといわれ、これが両軍に分かれて激戦を繰り広げる。ロシア軍堡塁へ攻め寄せるナポレオン軍の大縦隊、砲撃の嵐、フランス騎兵対ロシア歩兵の方陣、村落を巡る攻防、両軍入り乱れての白兵戦……。カメラが俯瞰で(時には空撮で)捉える平原は、ことごとく軍隊で埋め尽くされている。そして太陽にきらめく銃剣、戦場を色濃く漂う硝煙、群れをなして暴走する乗り手を失った軍馬、小山の様に折り重なる死傷者といった、戦史や小説で読んだ光景が現出する。クトゥーゾフやバグラチオンといった軍人も、イメージそのものの俳優が演じており(ナポレオンはちょっと体格が良すぎか)、砲弾に晒される恐怖に耐えながら待機する歩兵や、半狂乱で砲撃を続ける砲兵らの人間描写も、決してないがしろにはしていない。
 ロケ地は現地ボロディノとも、現地には記念碑が多いためスモレンスク近郊で撮影されたともいうが、史実重視のあまり、現状の豆畑を小麦畑に戻した所があるとか。また参加したソ連兵は19世紀当時の操典により、一分間の歩数から訓練されたという。当時の服装規定の変更を反映し、アウステルリッツの場面とはロシア兵の軍装が変わるのも評判になった。実戦さながらの撮影で重傷者10名を出し、騎兵の転倒シーンでは、疾走する馬の足に仕掛けたワイヤーを引くという荒っぽいやり方で、多くの馬が犠牲になったとか(?)。冷戦期の西側はこの巨編に驚き、様々な噂が流れ、話題となった。
 双方の軍隊の作戦をじっくり解説する映画ではないので、戦闘経過を知っていればより興味深いだろうが、そんな予備知識がなくても当時の戦いのイメージは十分に伝わる。第二次大戦にしか興味の無い方も、一度戦闘場面だけでも覗いてみたらいかがだろうか。

(文=ピエール・津崎)

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