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THE WAR MOVIE セレクション

映画好きの編集者がリレー形式で、戦史を題材にした映画をご紹介するという、雑誌『歴史群像』の名物コーナー。記念すべき第1回は、2000年7月発売の「夏-秋号(No.43)」に掲載されました。

【第28回】 『英霊たちの応援歌』(1979・日本 テレビ東京)

作品名:英霊たちの応援歌
発売元:キングレコード
価格:DVD ¥3,990(税込)
絶賛発売中!

『英霊たちの応援歌』は、「特攻隊映画」のなかで筆者が一番好きな映画である。
 この作品は、野球が敵性スポーツとして中止となる昭和19年から始まり、早稲田大学野球部でバッテリーを組む2人(永島敏行と中村秀和)が予備学生として海軍航空隊に入り(永島は13期、中村は14期)、沖縄戦で特攻戦死するまでを描いている。
 ストーリーはどちらかといえばありきたりだし、当時は日本映画の低迷期だから、低予算な作りではあるのだが、それでもお涙頂戴映画嫌いの筆者が感動してしまった映画なのだ(最初に観たのは学校での反戦教育の一環だった)。
 思うにそれは、登場人物の描きかた、つまり脚本の巧みさにあると思われる。
 というのも、本作は主人公2人の心情(というより覚悟か)が最後になってようやく腑に落ちる作りになっているのだが、主人公の気持ちがいまひとつわからないでドラマが進行していくという、観客にしてみればイライラする部分を、群像劇として脇役のエピソードを丁寧に描くことで物語を転がしていくのである。つまりそうしたエピソードの断片が実に素晴らしいのである。
 例えば……
 落研出身の隊員(映画公開当時人気があった山田隆夫)が、出撃前の別杯後にいう最後のセリフ「お後がよろしいようで」
 宿舎となった学校の黒板に、記憶を頼りに必死になって銀座の地図を完成させようとする隊員(もちろん慶應出身!)。
 そして彼女と一緒に芝居をするため、野球をやめて演劇部に入った隊員(法政大学野球部の一塁手=本田博太郎)が口ずさむ『シラノ・ド・ベルジュラック』(ベタだ)の台詞。
 これがどう素晴らしいのかといえば、学徒士官の心情を活写しているからである。
 戦後、日本映画では数多くの「特攻隊モノ」が創られたが、その多くは、予備学生を主人公にしている。
 これには、学生までもが戦争に行ったという悲劇性の象徴が理由のひとつにあったのだろうが、もう一つ重要なことは、彼らのメンタリティーが現在の我々からみて理解しやすいことが挙げられよう。物語にシンパシーを感じやすいのである。
 実は戦前も、大学があった都心部では、テレビとインターネットがないだけで、娯楽は現在とそう変わらないし、生活も相応にアメリカナイズされていたのである。生活スタイルに起因する現代人と同じようなメンタリティーを、予備学生は持っていたのだ。例えばそれは、自らも予備学生だった阿川弘之の作品『春の城』や『暗い波濤』などを読むと理解できる。
 そうした視点で見た場合、この作品は他の「特攻隊映画」と一線を画す。つまり登場人物たちは“手荒く”明るくて“娑婆っ気”が抜けていない。凡百の特攻隊映画にあるような被害者意識も悲劇という「美」に対する自己陶酔もない。
 そこには、“シャバっ気”を自らの誇りと存在証明とすることで過酷な運命に立ち向かった彼ら学徒士官の姿が浮かびあがるのである。そうしたリリシズムに筆者は感銘を受けたのである。

(文=樋口隆晴)

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【第27回】 『ワーテルロー』(1970・旧ソ連=イタリア)

 英雄ナポレオン生涯最後の戦いとして名高い、1815年のワーテルローの会戦をクライマックスに、世に言う“百日天下”を描いたこの映画は、戦史ファンにはぜひ見ていただきたいお勧め作品だ。
 2時間13分の上映時間のうち、ロシア遠征以来の敗北で遂に皇帝の座を追われたナポレオンが、流刑地エルバ島を脱出して再び皇帝に返り咲くまでが前半。残りの半分が、ナポレオン率いるフランス軍と、これを阻止せんとする英兵主力のウェリントン率いる同盟軍およびブリュッヘルのプロイセン軍との、壮大な戦闘描写に費やされている。19世紀の有名会戦の駆け引きを時間を追ってここまで忠実に再現した映画は、恐らくアメリカ製『ゲティスバーグ』(1993年)と本作品だけであり、スケールの大きさでは本作がはるかに凌ぐ。
 スクリーンには劇的に展開したこの会戦の主要な局面が再現される。十数万の軍隊が参加し、色鮮やかな軍服に身を固め、密集した隊形を組んで戦う当時の戦闘を再現するために、大量の人馬が集められた。そこで利用されたのが当時の共産圏の軍隊。プレスシートによればソ連兵2万とユーゴ兵8000、騎馬1500が投入されたというが、この数字を素直に信じたくなるほど画面を埋め尽くす膨大な軍勢には目を見張る。CGでは望むべくもない実在感で、こうした兵士たちに当時の操典に基づく訓練を施し広大なウクライナのロケ地へ投入。地形や建造物も含めて戦場を再現して、繁留気球やヘリ、新たに敷設した鉄道からそれを撮影するという豪華さだ。
 おかけで、フランス歩兵による横に200人、縦に20数列という大縦隊による攻撃や、史実では1万騎近くが投入されたという猛将ネイ率いるフランス騎兵の突撃が、実戦もかくやとばかりに再現された。特に後者は全編の白眉ともいうべき場面で、同盟軍歩兵が組んだ方陣(四角い防御隊形)群に襲いかかる騎兵の集団が描かれ、その凄まじさは、撮影時に方陣を形成していたソ連兵が、パニックを起こして本当に散乱・潰走したと伝わるほど。また開戦前、両軍の指揮官の視点から敵陣を俯瞰する場面も壮観で、部隊を完全に露出した形のフランス軍に対し、主力を丘の反対側の斜面に隠した同盟軍の配備がよくわかる。
 また、ナポレオン、ウェリントンという両軍の指揮官を演じた2人の名優の熱演も見どころ。天才肌で将兵に絶大な人気のあるカリスマ・ナポレオンと、兵隊なんぞクズと公言する貴族野郎だが防御の達人で知将のウェリントンという、正反対キャラが見事に描き分けられていた。見た目のイメージはクリストファー・プラマー演ずるウェリントンに軍配が上がるが、胃痛に苦しみ、幽閉同然の我が子を思いつつ、最後まで勝利に執着する、アカデミー賞俳優ロッド・スタイガー演ずるナポレオン像も見ごたえがあった。彼らを含め西側の主要俳優も現地入りしたわけだが、緊張緩和期に突入していたとはいえ、そこはやはり冷戦時代の悲しさ、当局により一般住民との接触は厳禁されたとか。
 総じて華麗な戦争絵巻というより、苛烈・熾烈なイメージの強い作品で、泥と血にまみれ荒廃した戦場の雰囲気や、部隊の先頭を進み銃火に倒れる少年鼓手、戦いの終わった夜の戦場を埋め尽くす戦死者と、それに群がる男女の盗人たちなどの描写には、無常観が漂う。
 戦闘経過に関する最低限の予備知識があった方がわかり易いが、全く白紙で観ても、死力を尽くして防戦した同盟軍、遂に攻めきれなかったフランス軍、最後に決定的役割を果たしたプロイセン軍という、この会戦の特色は良くわかる。これだけのスケールの作品は二度と現れないと思われるが、国内版のソフトが絶版になったVHSのみというのは寂しい限り。DVD、特に4時間のソ連オリジナル版の発売を切に希望したい。

(文=竹之内レギオ)

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