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平成26年度 富士総合火力演習 report 2

島嶼防衛を想定した演習に関心が集まる

 report1に続き、今回は演習本番の模様をお届けしよう。
 総合火力演習の取材で『歴史群像』編集部が御殿場に赴いたことは過去にも何回かあるが、雨は降っても小雨程度で、演習に支障が出るような悪天候に遭遇したのは今回が初めてだった。
 演習地周辺の山で発生した霧が流れ込んできて、一時的に視界が悪化したほか、演習時間帯のほとんどでかなりの雨量が降った。
 霧の濃さは、最も濃く感じた時でマスコミに割り当てられた席から、かろうじて射撃待機中の車両が見えた程度なので、おそらく視界は500~600メートルくらいか、それ以下だったろう。ちょうど、火砲による支援射撃のタイミングだった。
 牽引砲や自走砲などの長射程火砲のの射撃展示で「目標確認できず」「射撃中止」のアナウンスを聞いたのは、初めてのことである。
 もっとも、射撃中止になったのはあくまでも一般の見学者やマスコミがいるなかで、不慮の事故の発生を防ぐための処置でもあるようなので、実際の悪天候で、どこまでが「射撃中止」の判断基準になるのかはわからない。
 また、降り続く雨で地面は泥濘化し、多くの車両が黒い泥を跳ね上げながら走行するという、今まで目にしなかった光景を見られたのは収穫だった。今回の取材の注目ポイントの一つであった10式戦車の機動性が観察できたからだ。
 10式戦車は、不整地における高速機動時の車体制御と射撃照準の安定性が「売り」だが、通常よりも車体が地面に潜り込みやすいであろう軟弱な泥濘地でのスラローム射撃でも、安定して機動していたのは感動的だった。まぁ、現代の戦車は多少の不整地でも安定を欠くことは少ないのだが、実際に悪天候の中をダイナミックに走行し、射撃する様子を見ると、ことさらに強い印象を受ける。
 一方、演習内容に関しては、昨今の日本周辺の緊張状態を反映したものになっており、緊迫感のあるものだった。キーワードは、「島嶼防衛」だ。
 具体的にどこを守るのか、という説明はないものの、ディスプレイとアナウンスにより、具体的に「島嶼への進攻部隊接近」「上陸への対処」「防衛戦闘」というように段階を踏んだ説明がなされたのは印象的だった。日本領の島を仮想敵に奪われた場合の想定もなされており、「占領された島の奪回作戦」の想定では、本土から奪回部隊を艦船と航空機により輸送、艦と航空機の支援のもとで奪回作戦を行うという説明もなされた。
 演習展示自体は、本土に上陸してきた仮想敵に対処するプロセスとして、火力支援や対戦車戦、ヘリボーン作戦(取材日のプログラムでは航空機による支援攻撃は行われなかった)といった演習項目が展開する、従来から大きく変わらない内容だ。だがそれが「何を目的として行われるのか」という点が、本土での防衛戦という、一般には想像しにくい想定から、昨今の事件などで現実味を増した島嶼での戦闘の生起へと変わったことで、より現実味を増したものになったのではないだろうか。
 絵空事ではないかもしれない――そんな印象も抱かせる、今回の取材であった。